はじめに
今回のミニ・ブックレビューは2021年7月に読破した本をブログでのレビュー記事あり・なし問わず紹介します。
今月は夏バテが酷くてあまり本を読む気にならず、大河ドラマの『真田丸』を一気見したり、PS4で『アサシンクリード3 リマスター』をクリアし直したりと読書以外の活動が大半でした。
体調があまり優れないため、今月はやたら過去記事のリライトばかりしていたら、もう自分のエンタメ知識が古くなりすぎていてキツイと思う箇所がちらほら。ギャルゲーの例えが『トゥハート』とか、映画やアニメの説明をやたら90年代や00年代の作品でしているなど、分かりやすく例えているつもりなのに古すぎてむしろ理解の妨げになっているものが多く、これはもう止めようと決意。
生活を読書中心に切り替えてからこれまで積み上げてきた知識はほんの数年程度で錆びつく程度のものしかなかったという事実を突きつけられることばかりで、それが虚しいという思いが半分と、例え遅くても自身の薄っぺらさに気付けて良かったという安堵が半分です。
肝心のブログのほうはもう何度目か分からない、グーグルのコアアルゴリズムアップデートの影響でPV数が前月の60~70%にまでガクッと落ち込む事態となり、もう半ば諦めムードに。減ってはなんとか元に戻し、また減っては戻しの繰り返しで、気まぐれみたいにPV数が下がるコアアップデートにはほとほと疲れました。
もう考えたくもありません
小説 2冊
・『陰陽師 鬼一法眼 -義経怨霊篇- #1』 著者:藤木稟
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舞台は鎌倉時代の初期。特殊な出自を持つはぐれ者の陰陽師である二代目鬼一法眼が、鎌倉の都を脅かす怨霊たちを退治する伝奇小説です。
1巻はまだまだ序章なため人物同士の関係性の紹介が主で物語は特に動きません。
膨大な情報量で世界観を構築していくタイプの作者だけに伝奇というジャンルと相性が良く、しかも情報量の多さの割に文章も読みやすいためほとんど一気読みしました。
・『陰陽師 鬼一法眼 -朝幕攻防篇- #2』 著者:藤木稟
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2巻も1巻に引き続き鎌倉幕府や京の朝廷サイドの重要人物の紹介が続くため特に話が動きません。
やはり鎌倉時代初期という武力で実権を握った源氏と、源氏を利用して権力を掌握しようと企む北条氏、武士に支配権を奪われたくない朝廷の貴族達と、様々な思惑が交錯する時代なため関係性を整理するだけでも膨大な説明が必要で、ひたすら説明を読まされるだけの巻でしかありません。
この複雑怪奇な政治模様が魅力でもあるため文句も言えません
書籍 3冊
・『教養としての仏教入門 -身近な17キーワードから学ぶ-』 著者:中村圭志
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この本は主に三つのパートで構成されています。
一つ目は日本人の生活に根付く仏教由来の考え方を17のキーワード(諸行無常、涅槃寂静、輪廻転生、縁起、他力本願、など)を用いて解説するパート。
二つ目は、仏教とキリスト教とイスラム教を比較し、仏教の考えを補助線とし他の宗教への理解を深めるパート。
そして、三つ目が宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』が、どれほど仏教の宗派の一つである日蓮宗 の宗教観が濃厚なのかを評論するというパートです。
最初のパートである自分が無宗教だと思い込んでいる日本人が実はどれほど仏教的な価値観で生きているのか、それを17のキーワードで解き明かしていくというくだりはこの本の基本部分であり安定の面白さでした。
これを読むと分かるのが『ドラゴンボール』がいかに仏教的な価値観で出来ている漫画なのかということです。仏教とは死ぬまで修行、死んでからも修行という、何よりも修行が優先される宗教で、そもそも極楽浄土とはキリスト教の天国のような安息の場ではなく、死んでからも永遠に悟りを目指し修行を続けるための場所なのだと知り、どうしても一番最初に思い浮かぶのが死んでもあの世で当然のように修行を続ける『ドラゴンボール』の悟空の姿でした。
この本を読むと、サイヤ人は修行僧の菩薩 であり、最終的に戦った相手と和解しファミリー化していくというのもこの世の生きとし生ける物は全て仲間であり家族であるという法華経 の考えそのもので、実は『ドラゴンボール』を読むと自動的に仏教の価値観がインプットされるということがよく分かります。
のちに悟空を遙かに凌駕する存在である破壊神ビルスや全王が登場したのも、サイヤ人は永遠に修行を続ける修行僧でなくてはならないと考えた場合全てのピースがうまくハマります
日本人がやたら修行を通じて己を磨き成長する物語を好むことや、経験値を蓄積することで強くなるRPGというゲームジャンルを好むこと。『ドラゴンボール』や『ワンピース』など次から次に仲間が増えていく作品を好むことなど、これらの傾向は日本で独自に発展した仏教由来の価値観だと考えると腑に落ちることばかりでした。
逆に日本の作品から地道な修行描写が減っているということは、何よりも修行を重視する仏教の影響が薄まっているとも取れますね
最後の『銀河鉄道の夜』をはじめとする宮沢賢治の童話を仏教の視点で読み解くという試みも、宮沢賢治作品に濃厚な日蓮宗 的な考え方が理解出来るようになり、非常に興味深く読めました。
ただ、個人的には『ドラゴンボール』の見え方のほうが劇的に変わりました
・『深海生物学への招待』 著者:長沼毅
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深海生物の生態や地学など、深海に関する幅広い話題を扱う科学本です。
この本は軽い気持ちで手を出すと途中からブルーバックスとまでは行かずともそれに類する難解さで苦労しました。明らかに内容に対して説明量が足りておらず、ほかの地学の本で基礎知識を固めていないと理解に支障をきたす箇所が多くあります。
この本の中心は、タイトルに深海生物学と入っているようにチューブワームなどの深海生物(主に熱水生物群)の生態ですが、それ以外も著者が深海調査のために何度も乗り込んだ潜水調査船“しんかい”シリーズの性能や乗り心地など、深海に関する広範囲な話題が語られます。
それに、科学の本ながら文章が詩的で、海面に近い場所で暮らす生物は太陽の熱の恩恵で生きる“太陽を食う生物”で、深海の生物は熱水噴出孔という地球内部から吹き出す熱で暮らす“地球を食う生物”と表現するなど、印象に残りかつ深海の世界に対する想像力が膨らむ言葉が多くあります。
・『新 怖い絵』 著者:中野京子
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画家の数奇な人生や、絵画が描かれた時代背景を深く読み解くことでただ絵を眺めるだけでは決して見えない、絵画に潜む闇を白日の下に晒す『怖い絵』シリーズの一冊です。
他のシリーズと同様に完成度は折り紙付きで、解説を読む前と後では絵画の見え方が劇変するという知的な喜びが堪能できます。
印象派の代表的画家クロード・モネがいかに人間としてクズなのかというエピソードは強烈でした
それに世界史を勉強したばかりなので、本の中では詳しく書かれていない絵画の歴史背景もうっすら見える箇所があり、やはりアートを理解するためには世界史の知識は必須であると気付かされた一冊でもあります。
特にゴシック・リバイバルは、ゴシック(ゴート人風、ゴート人はゲルマン系の民族)という、元々ローマ人からすると異民族で西ローマ帝国滅亡の原因になったゲルマン人系の美術様式だと分かると、キリスト教の教会にゴシック建築のイメージがあるということがどれほど歪なことなのか分かり、知識一つで芸術作品の見え方が変わる不思議を味わえました。
最後に
今月はたった5冊しか読めず、さすがに来月はもっとペースを上げたいと思います。
一ヶ月かけて早い人なら三日で読める程度の量しかないのは怠慢が過ぎます