発光本棚

書評ブログ

発光本棚

月刊ミニ・ブックレビュー #10 2021年6月号

f:id:chitose0723:20210629173316j:plain

はじめに

 
 今回のミニ・ブックレビューは2021年6月に読破した本をブログでのレビュー記事あり・なし問わず紹介します。
 
 今月は、ほぼ毎日勉強漬けの日々を過ごし、起きている間は本を読むか勉強するかの二択という生活でした。ストイックに勉強ばかりしていると思考が研ぎ澄まされるので心地良い反面、とにかく肩こりや首のこり、頭痛や腰痛、眼精疲労に悩まされるといった体力の限界も突きつけられました。
 

5、6時間ぶっ続けで机に向かうだけで体のあちこちが悲鳴を上げます

 
 子供の頃はあれほど勉強が嫌で逃げ続けていたのに、大人になると今度は体調のせいで長時間の勉強に体が耐えられないという問題が発生し、歳を取れば取るほど体力が十分にあった時代に浴びるほど本を読み、体力の限界まで勉強しておけば良かったという後悔だけが募ります。
 

小説 3冊

 
・『利休にたずねよ』 著者:山本兼一
 
 
 侘び茶を大成させた茶聖千利休が、なぜ美に生涯を捧げたのか、そのルーツに迫っていく歴史・時代小説です。娯楽小説を対象とする直木賞(第140回)の受賞作でもあります。
 
 利休という数奇すきに生き、数奇すきに死んだ者の生涯をどのような趣向を凝らして描き切るのかに腐心しており、読んでいて作者のこだわりぶりに舌を巻くばかりの力作中の力作でした。
 

 
・『戦国秘録 白鷹はくよう』 著者:山本兼一
 
 
 織田信長に仕えた鷹匠たかじょうである小林家鷹いえたかの半生を描く歴史・時代小説です。
 
 作者の長編デビュー作にしてすでにベテランの域に達した完成度で、伝説の白鷹“からくつわ”の気品や、狩りの張りつめた緊張を文章で表現しきる腕前は圧巻でした。
 
 この小説を書くためにわざわざモンゴルまで鷹狩りの取材に行き、現役の鷹匠からもお墨付きを貰うほど細部にこだわり抜いた気迫は並々ならぬものがあり、山本兼一作品の中ではこの作品が一番好きです
 
 魂をこめた小説というのはここまで一行一行文章が重く感じられるのかというお手本のような大傑作でした。
 

 
・『雷神の筒』 著者:山本兼一
 
 
 まだ信長が尾張の大名となる以前から家臣として仕え、若き日の信長の鉄砲指南役も務めていた実在の人物、橋本一巴いっぱの半生を描く歴史・時代小説です。
 
 この小説の魅力は、なんと言っても鉄砲の歴史を紹介すると共に戦国時代の鉄砲に関するビジネス事情を扱っていることです。鉄砲本体よりも火薬や弾丸を作るための原料のほうが貴重で、各勢力が原料を手に入れるため苦労したという話は面白すぎて戦国時代の見え方が変わります。
 
 それ以外も、最初は自分たちの領地を守るために必要だと思っていた鉄砲が、徐々に他国の人間を侵略し虐殺するおぞましい大量殺戮兵器と化していくおぞましさを体感する容赦のない戦場描写も強烈で、欠点も多くありますが、なんだかんだで好きな作品になりました。
 

書籍 3冊

 
・『芸術闘争論』 著者:村上隆
 
 
 日本を代表する現代アートの第一人者である村上隆さんが、アートに関する話題を広範囲に語る本です。『芸術起業論』の続編という位置づけで、出来ればそちらを先に読んだほうが理解が深まります。
 

 
 徐々にガラパゴス化し世界のアートシーンから遠ざかる日本のアート業界への苦言や、アートの本場で揉まれてきた著者だからこそ可能なアーティストを目指す若者に向けた極めて実践的なアドバイスなど、多岐に渡る内容に触れています。
 
 前作『芸術起業論』と同様、自身を天才アニメーター金田伊功(アニメ好きなら誰でも知っている金田パースの人)に憧れアニメーターを目指したのに挫折しアーティストになった落ちこぼれだと評する、どこまでも本心をさらけだす執筆スタイルはそのままでです。そのため、読むとどうしても村上隆というアーティストに好感を抱かずにはいられません
 

アニメーター金田伊功の作画はアートで、その凄さを世界中に伝えたいなど、世界を股に掛けて活躍するアーティストとは思えないような発言が連発します

 
 ただ、熱く煮えたぎる思いをぶちまけていた『芸術起業論』に比べると、ややトーンが落ち着いており、本から伝わる熱量は若干後退しました。
 
 
・『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書』 著者:山崎圭一(ムンディ先生)
 
 
 YouTuberであり現役の高校教師でもあるムンディ先生こと山崎圭一さんの世界史参考書です。同じシリーズである『日本史の教科書』同様、世界史に対する苦手意識が克服され、参考書とは思えないほど楽しく読めました。
 
 個人的に、中野京子さんの『名画で読み解く』シリーズを読んでうろ覚えだったフランスのブルボン家やスペインのハプスブルク家、イギリス王家やロシアのロマノフ家の知識が世界史のあらすじに接続され整理整頓されていく過程は特に快感でした。
 
 ただ、パッと見薄そうに見えて実は無駄が極限まで省かれた内容でもあり、世界史のあらすじながら本気で頭に叩き込もうと思うと凄まじい手間と時間が掛かります
 

知識が定着するまで徹底して読み返したので読み終わるまで約三週間も掛かりました。なので、この一冊で6月がほぼ潰れ他の本にまったく手が回らない状態に

 

 
・『100年の価値をデザインする 「本物のクリエイティブ力」をどう磨くか』 著者:奥山清行
 
 
 アメリカのGM(ゼネラルモーターズ)やドイツのポルシェ、イタリアのフェラーリ(のカーデザインを担当するピニンファリーナ)など、世界中でカーデザインを中心としたデザインの仕事をしてきた著者が、デザイン論(クリエイティブ論)を語る本です。
 
 デザイナーの物の見方や考え方を知ることが出来る『フェラーリと鉄瓶』という本が面白くこちらに手を出しましたが、やはり一切ハズレのない出来で書いてあること一つ一つがためになります。
 

 
 海外生活の長い著者が語る日本人と海外の人間(特に職人気質のイタリア人)との価値観の違いの話や、なぜ日本のもの作り力が壊滅的なまでに衰退したのかという現状への冷静な分析など、読んでいて納得できる話ばかりでした。
 
 中でも特に印象的だった話が、最近のクリエーターや販売員たちは自分たちが作ったり売ったりしている物を所有しない、つまり自分自身がユーザーとしてこういう物が欲しいという理想の物を作れていないという指摘です。
 
 作者の奥山さんはイタリア時代に自分がカーデザインを担当したクアトロポルテを愛車とし、自分のデザインの美しさに日々うっとりしていると書いているように、本当に自分が心の底から作りたい物を作っているなら自分の作品に自信や誇りを持つのが当然で、それなのに最近の販売員は自社が販売している商品を日常的に使用しておらずユーザーより自社製品のことを知らないと嘆いています。
 
 この、物を作る人たちが心の底から自分自身が生み出す製品に惚れ込んでいない、つまり自分が愛用したいと思う物を作れていないという問題が、日本のもの作りが壊滅的な状態にある大きな原因の一つだと思います。
 

最後に

 
 今月は『世界史の教科書』でほぼ半分近く時間を使った上に、日本史の復習もみっちりこなし、こんなに勉強し続けたのはいつ以来だろうと思うほど充実した日々でした。
 
 ただ、勉強だろうとなんだろうと楽しい時間はあっという間に過ぎるので、勉強が楽しくなればなるほど時間が過ぎ去るのも早くなり、一ヶ月が半月くらいの長さに感じられるのは複雑な気分です。
 
 
TOP