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月刊ミニ・ブックレビュー #09 2021年5月号

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はじめに

 
 今回のミニ・ブックレビューは2021年5月に読破した本をブログでのレビュー記事あり・なし問わず紹介します。
 
 ここ一年ほどは自分が読みたいと思った本のみ片っ端から読み、本当にやりたいことだけを厳選して行う生活を心掛けたため、最新のトレンドに疎くなりました。それに、アスリートが一年練習をサボったら体がなまるのと同様に、これまで積み上げてきた様々な趣味の知識もアップデートも何もせず放置した結果、もはや使い物にならなくなりました。
 
 ただ、子供の頃から惰性で続けていた習慣を根こそぎ脱ぎ捨てたため、毎日が軽やかになり、世界そのものの景色も変わって見えます。
 
 それと関連して、憧れを抱く人間のタイプも大きく変化しました。昔は職人のように一つの分野を極めたスペシャリストのような人に強く惹かれましたが、最近は特定の分野に篭もらず新しい事に挑戦し、視野を広げる努力を惜しまない人にしか魅力を感じません。
 
 努力家に憧れるという話と繋がるのが、後々ミニレビューの中でも登場する深刻な勉強不足です。さすがに読書量が増えると経済や政治、科学や数学、歴史、語学力と自分の頭の悪さに悩まされることが多くなり、今後は基礎的な勉強に費やす時間を倍以上に増やさないと賢い人についていけないという危機感を抱きました。
 

小説 2冊

 
・『イツロベ』 著者:藤木稟
 
 
 共通の世界観を持つ『イツロベ』、『テンダーワールド』、『アークトゥールス』という三部作の一作目。気弱な産婦人科医がアフリカにある禁断の地レポジトリ(神の森)で奇妙な体験に見舞われたことをキッカケに、徐々に封印していた罪の記憶が蘇るサスペンス小説です。
 
 医者が過去の記憶に苦悩するだけに留まらず、謎のネットゲーム“ゴスペル”と絡みデジタルに適応することで次の種へと進化しようとする新人類の胎動という突拍子もない話も同時進行で描かれ、ジャンルに囚われない自由さが爽快でした。
 

 
・『アークトゥールス -全ての物語の完結と始まり-』 著者:藤木稟
 
 
 『イツロベ』、『テンダーワールド』に続く三部作の完結編で、『テンダーワールド』で別々に動いていたキャラクターたちが一堂に会し、全ての鍵を握る天才科学者ロザリーの行方を追うSF小説です。
 
 三部作を通して核となる人類の進化という扱いが難しいテーマに対し、意外な決着がつくラストは圧巻です。
 
 ただ、情報の密度が濃く読み応えのあった『テンダーワールド』に比べ話が間延び気味で、単純な小説としての面白さは前作のほうが勝ります。
 
 それでも、三部作の締めとしては後付けながら設定をキレイに回収し、しかも事前の想像を遙かに超えたショッキングな展開もありと、文句なしの完結編でした。
 
 余談ですが、単行本の二段組み小説は初めてでした。
 

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書籍 10冊

 
・『ホリエモンとオタキングが、カネに執着するおまえの生き方を変えてやる!』 著者:堀江貴文
 
 
 説明不要のホリエモンと、アニメ製作会社ガイナックスの元社長である岡田斗司夫さんの対談をまとめた本です。
 
 経済の中心がお金(資産)ではなく信用(評価)となる“評価経済”に関する話題や、ネットを介してアマチュアだけでアニメを作るアニメ2.0構想という試みについて語られます。
 
 二人とも安定した生活を捨て、自分自身を実験体とする社会実験が生き甲斐のような人物のため、最新の実験レポートを読むような面白さがあります。
 
 それにこの本を読むと、なぜホリエモンはじめ成功者が極端にお金の話を嫌うのかというと、会う人会う人に「どうやったら金を儲けられるのか?」という知性も品性も足りない最低な質問をされ過ぎて、心底お金への執着が強い人たちに辟易へきえきしているからなのだと気付くことが出来るオマケもありました。
 
 
・『僕らが毎日やっている最強の読み方 -新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意-』 著者:池上彰 佐藤優
 
 
 ジャーナリストの池上彰さんと、元外交官で現在は作家の佐藤まさるさんが、日々の勉強のコツについて語り合う対談本です。二人とも雑誌の連載や本の執筆など、月に10本を軽く越えるような締め切りに追われる生活を送りながらどのようにインプットの時間をひねり出すのか、そのテクニックが主に紹介されます。
 
 専門的な知識の学習というよりは、忙しいビジネスパーソンに向けたリベラルアーツ(一般教養)についての勉強法が主で、政治や経済、国際情勢など、広範囲に渡る広く浅くの情報の収集の仕方が語られます。
 

池上さんはジャーナリスト的なスタンダードな勉強法、佐藤さんは元外交官らしく効率の良い語学学習の仕方やマニアックな国際情勢の調べ方とバランスが良いですね

 
 まず驚くのが、二人とも一日のほぼ全ての時間を勉強と執筆にあてているハードスケジュールっぷりです。寝る時間を除く大半が大学やその他の講義か執筆の仕事、それ以外は勉強しかなく「こんな生活で生きてて楽しいのか?」と本気で心配になるほどでした。
 
 勉強に支障が出るため酒は絶対に飲まず、娯楽も全て断ち切り、一日の睡眠時間は平均4~5時間で、毎日早起きし、ありとあらゆる全ての時間を情報収集と勉強、執筆にあてるという毎日は、もはや修行僧にしか見えません
 
 しかし、二人とも勉強が大好きな勉強中毒で、知識を得ることで世界の見え方が変わることを心の底から楽しんでいることが窺え、読んでいるとコチラも勉強したいという意欲が自然と湧いてきます
 
 特に興味深かったのが、二人ともスマホに触らないように細心の注意をはらっているという点が一致していることです。ネットサーフィンは時間を無駄にする可能性が高いので、なるべくスマホに触れず、ネットにアクセスすることすら最低限に留めるという工夫が印象的でした。
 
 『僕らはそれに抵抗できない』という本でも指摘されているように、エリートはスマホやネットサーフィンのような中毒性が極めて高く時間を削られるものを本能的に危険と認識し自身から遠ざけるのは当然なのだと改めて思い知らされます。
 

 

この本を読むと自分の勉強量があまりに少ないことが恥ずかしくなります

 
・『読書の技法』 著者:佐藤優
 
 
 同じく、元外交官で現在は作家の佐藤まさるさんの読書術や勉強術が紹介される本です。
 
 佐藤優さんは、前から月500冊本を読むとか、毎月といっていいほど本を出し続けるなど正直どこかうさん臭い印象を抱いていましたが、この本を読むと疑問が解けます。
 
 まず、この人を作家として認識していたことがそもそも間違いで、正しくは元外務省の情報分析官でした。情報分析官としてロシアで働いていた時は、毎朝本数冊分の外国語の情報に目を通し、そこから国際問題に発展しそうな細かい情報を拾い膨大な量のレポートを書いていたという凄まじい激務が紹介され、なんてことはない、今現在の生活も情報分析官時代の日常業務の延長と考えるとしっくりきます。
 
 月に本を500冊読むというのも、作家やジャーナリストの読書方法とはやや異なり、情報分析官が情報を精査するようなかなり特殊な技法なので、正直自分のような人間がこの本を読んでも書いてある読書術を実践するのはほとんど不可能に近いです。一応ビジネス書として書かれていますが、さすがにビジネスパーソンでもこの情報分析官スタイルの読書術をそのまま取り入れるのは無理があると思います。
 
 ただ、本の中で紹介される勉強や読書をする際にサブテキストとして有用な参考書は何冊か欲しいと思う物があったのと、単純に情報分析官が情報に接する際の心構えが知れ、読みものとしては楽しめました。
 

この本も自分の頭の悪さが恥ずかしくなる一冊でした

 
・『調べる技術 書く技術 誰でも本物の教養が身につく知的アウトプットの極意』 著者:佐藤優
 
 
 またまた同じく、元外交官で現在は作家の佐藤まさるさんの勉強術が紹介される本です。
 
 ただ、中身は前述した『僕らが毎日やっている最強の読み方』や『読書の技法』とほぼ被っており、これらを先に読んでいる場合は特に有用な情報はありません
 
 後、上の二冊がストイックに勉強に励み、貪欲に知識を吸収し続けるべきという主張がされているのに対し、この本は人生は楽しむことが重要であり、勉強を生活の中心に据えるべきではないと、やや勉学に対し緩い態度になっているのが気になりました。
 

前の二冊はハードスケジュールのビジネスパーソン向けで、この本はどちらかというと高校生や大学生、そこまで激務でない人向けのややユルい勉強術といったところですね。これなら前のハードな勉強術のほうが断然好みでした

 
・『思考法 教養講座「歴史とは何か」』 著者:佐藤優
 
 
 再び元外交官で現在は作家でありキリスト教の神学者でもある佐藤まさるさんが行った講義を書籍化したものです。
 
 現代日本を蝕む病理である知性を否定し自分の思い込みに耽溺たんできする“反知性主義”をテーマに歴史を振り返り、時代の節々に顔を見せる反知性主義的な思想を見抜くというコンセプトです。
 
 この本は、京極夏彦さんの小説『百鬼夜行シリーズ』と非常によく似た手法で、膨大な知識で読者の思い込みという憑き物を落とすような試み(この本では悪魔払いと表現)をしており、読んでいて歴史の見え方が変化する知的な興奮が味わえます。
 

京極夏彦小説を読んでいなかったらこのコンセプトを見抜けませんでした

 
 この本が目指すのは、一見宗教に見えない、しかし中身は宗教的な思い込みでしかないデタラメな思想を一つ一つ解きほぐしていくというもの。しかも、そのような論理的な体裁を取りつつ中身は単なる思い込みという宗教に近い思想は人によっては激しく魅了されてしまうため極めて危険であるという忠告がされます。
 
 本の中で最も印象に残ったのは、陰謀史観はユーモアが無い人間が陥るため、マジメに反論するのではなくユーモアで笑い飛ばすのが最も効果的という話でした。
 

コレは本人のユーモラスな言動を見ると説得力がありますね

 
※動画の約5分57秒~

 
 作者の、徐々に日本から教養が消え去っていくことに対する危機感が伝わってくる一冊です。
 

この本も自分の勉強不足と読解力の無さを突きつけられるキツイ一冊です。教養人と呼ばれる人たちと自分の頭の出来に深刻な開きがあることを痛感し、本気で落ち込みました

 
・『アートは資本主義の行方を予言する -画商が語る戦後七十年の美術潮流-』 著者:山本豊津
 
 
 長年画商として日本の現代アートに接してきた著者が、アートと資本主義の以外な共通点を解説する本です。
 
 資本主義の無価値な物に高値がつくというカラクリと、本来の価値すら遙かに超え価格が高騰するアートの仕組みは実は同じであるという考えは衝撃的でした。
 
 今後日本はどのようにアートと付き合い、自国の文化的価値を高めていけばいいかというビジョンも語られ、非常に知的興奮を覚える一冊です。
 

 
・『コレクションと資本主義 「美術と蒐集」を知れば経済の核心がわかる』 著者:水野和夫 山本豊津
 
 
 経済学者である水野和夫さんと、画商である山本豊津さんが、コレクション(蒐集しゅうしゅう)というキーワードを元に、アートと資本主義の関係について語る対談本です。
 
 どちらかというと経済の話が中心で、アートの話題は控えめなので、アート寄りの話を求めると若干肩透かしを喰らいます。
 
 読めば読むほど、資本主義がどのように富を求め拡大していくのかその様子が手に取るように分かり、ヨーロッパ史を通常とは異なる視点で眺める楽しさが味わえる一冊です。
 

 
・『エントロピーをめぐる冒険 -初心者のための統計熱力学-』 著者:鈴木炎
 
 
 熱力学の歴史を、主にサディ・カルノー、ルートヴィヒ・ボルツマン、ジョサイア・ウィラード・ギブズという三人の科学者の人生と交えて解説するという非常に変わった形式のブルーバックスの科学本です。
 
 この本は、三人の科学者の伝記と熱力学の法則の解説が合体したようなヘンテコな語り口で非常に癖が強いです。まず科学者の人生が紹介された後に、それぞれが発見した熱力学の法則について数式を交えた解説がされます。そのため、自分のような数学が苦手な人間は数式をある程度飛ばし、単に熱力学を発展させた科学者がどのような苦難の人生を送ったのかを知る伝記としても読めます。
 
 一方、熱力学とエントロピーに関する解説は、理系の高校生が理解出来る程度の難易度と書かれていますが、自分にはまったく手に負えませんでした。
 
 そもそも、解説の際の例えが数学が分からなくてもデタラメだろうと丸分かりな内容だったり、笑いのセンスが昭和で止まっているライターが書いたような読んでいてイライラするような文章だったりと、とてもこの本で勉強がしたいとは思えません。
 
 ただ、三人+αの科学者達が織り成す熱力学とエントロピーをめぐる歴史読みものとしては抜群の面白さでした。特にボルツマンが後の量子力学に繋がる原子論を支持した際にドイツ国内で袋叩きにされ精神を病み自殺に追い込まれた話は、大陸移動説を発表しバカにされたウェゲナーを思い出すなど、さぞかし無念だったろうと胸が痛みました。
 
 その時代において最先端を走る人がどれだけ異端とみなされバッシングを受け精神的に追い詰められるのかという、現代でも何ら解決することなく残り続ける根の深い問題にやるせなさを覚えます。
 

この問題に関してはネットのせいでむしろ現代のほうが悪化していますね

 
・『世界を変えた10冊の本』 著者:池上彰
 
 
 ジャーナリストの池上彰さんが、世界に強い影響を与えた本を10冊紹介します。
 
 10冊の本は以下の通り。
 
1.『アンネの日記』 著者:アンネ・フランク
2.『聖書』 
3.『コーラン』
4.『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』 著者:マックス・ウェーバー
5.『資本論』 著者:カール・マルクス
6.『イスラーム原理主義の「道しるべ」』 著者:サイイド・クトゥブ
7.『沈黙の春』 著者:レイチェル・カーソン
8.『種の起源』 著者:チャールズ・ダーウィン
9.『雇用、利子および貨幣の一般理論』 著者:ジョン・M・ケインズ
10.『資本主義と自由』 著者:ミルトン・フリードマン
 
 どの本も、現代の国際情勢を理解する際のサブテキストとしては応用範囲が広く優秀なもの揃いです。内容に一切の無駄が無く、池上さんの著作の中でも文句なしの出来映えでした。
 

 
・『MMT(現代貨幣理論)とは何か 日本を救う反緊縮理論』 著者:島倉原
 
 
 MMTというアメリカで発展した比較的新しい経済理論を紹介する本です。本書はMMTの入門書のような内容ですが、コレ一冊読むだけでMMTが貨幣に対してどのような認識を持ち、それが従来の経済学とはどれほどかけ離れたものなのか最低限は理解できます。
 
 この本は今まで当然と疑いもしなかった貨幣や経済学に対する認識がひっくり返されるため、ここ最近読んだ本の中でも一位、二位を争うほどの面白さでした。
 
 読んでいて一番衝撃だったのが、税金とは国家の財源ではないという主張です。税金(租税)とは、単に通貨に対する需要を創造するための用途と経済の調整手段の一つに過ぎないという考えは、これまで自分が信じていた経済の常識を根本から完膚無きまでに破壊し尽くすものであり、これを安易に受け入れるのはさすがに抵抗があります。
 
 財政の健全化に意味など無く、自国通貨を発行できる通貨主権国家なら赤字国債が何千兆円に膨れあがろうが問題など無いという考えを受け入れるにはこれまで常識とされたあらゆる経済学の基本を放棄しなければならず、アメリカで批判が殺到したという経緯も非常に納得がいきました。
 

この本は劇薬中の劇薬ですね。従来の経済学を天動説に、MMTを地動説になぞらえたくなる気持ちも分かります。これが常識になったら世界経済がひっくり返りそうです

最後に

 
 今月は自身の勉強不足を痛感させられ、あまりの頭の悪さに羞恥心ばかり募る精神的にキツイ毎日でした。
 
 特に、まともな社会人なら『MMT(現代貨幣理論)とは何か』のような本は最低でも二年前には読んでおかなければならなかったと気付かされ、自分の情報感度が低すぎるという問題にもぶち当たり、反省の連続です。
 
 今後、もっと難解な本に挑戦する場合は、今の勉強量ではまったく足りず、お話にもならないので、より一層勉学に励もうと決意した月でした。
 
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