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【#06】『村上海賊の娘』、『天地人』歴史小説の2月

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はじめに

 
 今回のミニ・ブックレビューは2021年2月に読破した本をブログでのレビュー記事あり・なし問わず紹介します。
 
 今月はビジネス書の割合が過去最高に多く、毎日のようにビジネス書ばかり読んでいたら一ヶ月が終わっていたという寂しい月でした。
 
 どうしてもプロの作家でない人が書いた本は、書いてある情報が有益かどうかが大切であり、純粋に文章を楽しむという読書の醍醐味が薄く、あまり読んだ本が腹持ちしません。
 
 やはりプロの作家は読書体験を最大限にまで高めるすべを自然と身に付けており、これがあるとないとでは本を読む喜びは雲泥の差です。
 

小説 2冊

 
・『村上海賊の娘 #1~4』 著者:和田竜
 

 

 

 

 
 文庫版は合計4冊、約1350ページという和田竜作品では突出した大ボリュームの歴史小説です。
 
 兵糧攻めを受ける大坂本願寺を救うべく、食料を運ぶ毛利の水軍&村上海賊vs織田の水軍である真鍋海賊という海賊同士の荒々しい海戦が見所の超大作で、盛り上がりの熱量は過去最高でした。
 
 『のぼうの城』と同様、多勢に無勢で降参もやむなしという状況であえて自分たちの気風を守るため命を賭して戦に挑み、生き様を戦国の世に刻むという熱いメッセージが込められた和田竜らしさの塊のような大傑作でした。
 
 
・『天地人』 著者:火坂雅志
 

 

 

 
 上杉景勝かげかつに仕え、上杉家を生涯支えた名将直江なおえ兼続かねつぐの人生を描いた歴史小説です。
 
 NHKの大河ドラマの原作小説ですが、相当量のボリュームもまったく気にならないほどの面白さで、これを大河ドラマにしたいという思惑も納得でした。
 
 中盤以降に視点が兼続から離れやや退屈になるという欠点はあるものの、読んでいてすこぶる気分が良い美文が何よりも魅力です。
 

書籍 8冊

 
・『おとなの教養2 -私たちはいま、どこにいるのか?-』 著者:池上彰
 

 
 前巻と同様、NHK文化センターでの講義を書籍化したもので、教養(リベラルアーツ)が学べる一冊です。
 
 前巻は政治・経済・宗教・科学など幅広い分野にまたがっていましたが、2は政治と経済が中心で、やや堅い内容です。
 
 AI・ビッグデータ、キャッシュレス社会、仮想通貨など経済に関するトピック、イギリスのEU離脱(ブレグジット)やトランプ大統領などポピュリズムを武器に大衆を扇動する政治家の危険性、そして日本国憲法に関する基礎知識と、世界情勢に対する知識が広く学べます。
 
 とある雑誌の影響で大学の学費が大幅に上がってしまったアメリカの珍事件や、ポーランドから移民が大量に押し寄せた結果イギリスがEU離脱に至ってしまった経緯の解説など、相変わらずタメになる話は多々あります。しかし、地政学やEU離脱、トランプ政権の話題など、『知らないと恥をかく世界の大問題』シリーズと内容が大きく被っており、そちらを読んでいる場合は既知の情報だらけです。
 
 池上さんの本は基本的に説明の重複が多くすでに知っているものばかりで、前巻同様にやや味気ない内容でした。
 
 
・『 「1日30分」を続けなさい:人生勝利の勉強法55』 著者:古市幸雄
 

 
 勉強は未来の自分への投資であり、日々どのように勉強に取り組めば飽きずに長期間続けられるか、その方法を具体例を交えて解説する勉強術の本です。
 
 本の内容を要約すると、長期的に勉強をする場合、一気に集中し無理のし過ぎで勉強そのものに苦手意識を持ってしまうより、1日たった30分の勉強を習慣化すれば、300日で150時間になるため、短時間の勉強を習慣化したほうが最終的には勉強効率が上がるという内容です。
 
 この1日たった30分の勉強効率をさらに高めるため、勉強は長時間ダラダラとせずこまめに休憩を挟むべきといった注意点や、人間の体は食べた物を胃で消化する際にかなりのエネルギーを消費するため、出来るだけ消化しやすい食事を心がけることで本来なら消化でロスするエネルギーを脳に回すテクニックなど、具体的な生活習慣に関しての知識も披露されます。
 
 ただ、やたら自画自賛が多かったり、著者が提唱する勉強方法を実践しうまくいったという人たちの喜びの感想がちょいちょい挟まれたりと、これがとんでもなくうさん臭く、正直ジャマでしかありませんでした。
 

むしろこんなものを載せたせいで悪質なセミナーの勧誘に見えますね

 
・『仮想空間シフト』 著者:尾原和啓 山口周
 

 
 ビジネスの最前線にいる二人が、コロナ禍の影響で仕事が現実の空間からデジタル空間へ移行する現状に対しての考察や、これからのビジネスの在り方に対しそれぞれの思いを語り合う対談形式のビジネス書です。
 
 近未来のビジネスに関する予想を二人で語り合うという内容は、ビジネス書としてはかなり面白い部類で、読み始めたらほぼノンストップで最後まで読んでしまいました。
 
 特に、これからのビジネスでは何よりも企業のモラルが大切というくだりが最も印象に残りました。
 
 仮想空間で人材を探す場合、単に自社の利益を追求するだけの低俗な企業理念ではまともな人材を集めることは出来ず、しかもデジタル空間でしか繋がりのない者同士をチームとしてまとめ上げ、機能させることも困難。そのため、社会貢献を前提とした高い理想を掲げることで志の高い優れた人材が集まりやすい環境となり、高いパフォーマンスの仕事が実現出来るという話は、そうなって欲しいと強く思います。
 
 スウェーデンの家具メーカーであるIKEAが、利益のためではなく、自分たちの企業理念であるインテリアを全ての人に届けるという理想を貫き通したことで障害者用のインテリアパーツが生まれ、それが高く評価されたという具体例から、目先の利益を追求することよりも自分たちの掲げる信念を守り抜くほうが最終的に優れた商品が生まれ、結果として信頼が高まり企業の寿命も延びるという話が特に感動的でした。
 
 これからの時代は弱者を食い物にするような小手先のビジネスは通じず、そこに社会貢献や大勢の人を幸福にするという高い理想がセットでないと、オンライン上だけの繋がりが弱いチームは動かなくなるだろうという予想はぜひ当たって欲しいと思います。
 

ただ金を儲けるだけのビジネスは古くなりそうですね

 
・『外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術』 著者:山口周
 

 
 この本は今月読んだビジネス書の中では最も為になりました。
 
 ビジネスパーソンの読む本には、古典のビジネス書のように即ビジネスに役立つ本と、直接ビジネスには繋がらなくても自分の個性を形成する教養書を読むという二種類の読書があるという読書術の本です。
 
 山口周さんのビジネス書で何度も繰り返される偶然性の大切さや、論理と同様に直観や感性、美意識を大切にするビジネス姿勢が大事という主張を読書論で展開するようなもので、こんな読書の仕方をしているとあのような考え方になるのかと腑に落ちます。
 
 
・『スマホ人生戦略 お金・教養・フォロワー35の行動スキル』 著者:堀江貴文
 

 
 スマホをビジネスで使いこなすための、ホリエモン流テクニックが紹介されるビジネス書です。
 
 世界初のスマートフォンであるアップル社の“iPhone”がなぜこれほどまでに普及したのかと言うと、スマホというただの小型のパソコンを強引に電話と言い張ってパソコンに苦手意識を持つ人にもセールスが出来たからと言うビジネスパーソン的な視点の話は目からウロコでした。
 
 ただ、ビジネスに役立つ具体的なスマホ活用法というよりは、どうしても『多動力』と同様に、考えるよりも即行動しろというアドバイスに無理矢理スマホ論をくっつけたような薄い内容で、スマホそのものに対する捉え方がガラッと変わるような深い本ではありません。
 
 すでに『多動力』を読んでいる場合は似たようなアドバイスの繰り返しになるためあまり得るものは無いと思います。
 

ホリエモンのビジネス論は『多動力』でほぼ語り尽くされているため内容が酷似するのは仕方ないですね

 
・『フェラーリと鉄瓶 一本の線から生まれる「価値あるものづくり」』 著者:奥山清行
 

 
 アメリカ・ドイツ・イタリアと世界中でカーデザインをはじめとした様々な工業デザインに携わった著者が、デザイン論やものづくり論を語るエッセイです。
 
 トンデモなイタリア人の気質がのぞけるイタリア滞在記としての魅力と、フェラーリが行うブランディングのための戦略の解説。そして、ものづくり力が低下している日本への警鐘という軽さと重さが交互する、楽しくそして考えさせられる一冊でした。
 
 
・『戦国の合戦と武将の絵事典
 

 
 戦国時代の基礎的な知識を豊富なイラストで説明する大変便利な辞典です。
 
 戦国時代の人々の暮らしや、文化、城や屋敷の用語説明など本当に多岐に渡る基本情報が詰まっており、歴史小説を読む際にはこの本が手放せなくなりました。
 
 特にありがたかったのが、重さの単位(しゃくごうしょう)や、通貨の数え方(もんかん)といった庶民目線の情報が豊富な点です。
 
 細かいところで感心したのは有名武将の幼名(直江兼続は与六など)や、武将の通称(明智光秀なら十兵衛など)といった、三国志や戦国時代ではお馴染みの実名以外の呼び方の簡単な一覧が載っていること。これは歴史小説や大河ドラマを見ていると本当に混乱するので、この情報のみで辞書を一冊出して欲しいとすら思えます。
 
 この本はイラストが豊富なため、映像作品よりも絵が存在しない歴史小説を読む際にこそありがたみを感じます。
 
 
・『海はどうしてできたのか』 著者:藤岡換太郎
 

 
 『山はどうしてできるのか』や『川はどうしてできるのか』と同一の著者が書いた地学の面白さを懇切丁寧に教えてくれるブルーバックスの科学本です。
 
 海の水は宇宙から飛来した隕石によってもたらされたという衝撃的な話や、約46億年に渡る地球史の中でどのような気候変動が起こり、現代までにどれほどの生物が大量絶滅で滅び種の世代交代が繰り返されたのか、海に留まらず地球の広範囲の知識が学べる良著でした。
 

生物の大量絶滅の話があるため、ゲームの『デス・ストランディング』が好きな人には特にオススメです

最後に

 
 今月は、毎日ビジネス書ばかり読んでいるような状態で、イマイチ本を読んだ充実感がなく、来月は小説に軸足を戻したいと思います。
 
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