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【#05】和田竜の小説にハマった1月

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はじめに

 
 今回の読書記録は2021年1月に読破した本をブログでのレビュー記事あり・なし問わず紹介します。
 
 ここ数ヶ月は毎日本ばかり読んでおり、それ以前に比べると格段に日々の生活が充実するようになりました。しかし、生活を急に読書中心に切り替えると細かい問題も発生します。
 
 まず、活字主体の生活となるため趣味がガラッと変わり、映像作品など、かつて当たり前のように好きだった刺激の強いものに一切興味が無くなること。この、好みの変化は積極的に新しいものに出会い知識を吸収していきたいので致し方ないと諦めました。
 
 そして、もっと目立たなくてかつ深刻な問題が、当たり前のように調べていた周辺情報にうとくなることです。
 
 例えばゲームならゲームエンジンやCGに関する知識、アニメなら製作会社やアニメーター、クリエーター関連の情報、声優さんの知識、同じくCG系の情報など、さほど意識をせずついでに調べていた周辺的な情報へのアクセスが止まるので急激にそのジャンル全体の認識がぼやけていきます。
 
 自分の場合は、まずゲームや洋画を見なくなったため、銃器に関する知識がほとんど無くなりました。FPSやTPSといったシューティングゲームをプレイしなくなり、ガンアクション映画も好みから外れてほぼ見なくなったため、銃器に関する情報を調べたり確認したりする習慣が完全に消滅しました。
 
 このように趣味そのものだけでなく、その趣味をより深く理解するためにほとんど意識もせず行っていたような行動がぱったり途絶え、気付いたら特定分野の知識がごっそり消えているという問題がザラに起こります。
 
 メイン趣味とそれに付随する周辺情報はある程度はリンクさせないとうまく相乗効果を発揮してくれないため、歳を取ったのなら趣味とその周りにある周辺的な情報の配分は慎重に選ぶ必要があるなと思います。
 

自作パソコンが好きな人がゲームも好きだと同じデジタル関連の情報や取り扱う機器にある程度の互換性がありますが、自作パソコンと歴史小説だと接点がほぼないようなものですね

小説 4冊

 
 今月は歴史小説しか読めず、さすがにジャンルが偏りすぎだと反省。どれもこれも400ページ程度で薄いため、あまりガッツリ本を読んだという手応えもありませんでした。
 
 
・『秀吉と武吉 -目を上げれば海-』 著者:城山三郎
 

 
 戦国時代、瀬戸内海に生きる海賊を主役にしながらも、組織運営の困難さや、後継者が無能で組織が腐敗していく怖さ、変わりゆく時代に適応できず消え去る古き者たちの哀愁を描いた異色の歴史小説です。
 
 歴史小説として文句なしの完成度な上に、作者の得意分野である経済小説のノウハウを戦国時代に当てはめているため、村上海賊内の派閥抗争や豊臣秀吉や毛利家を例とし戦国の優秀な人材を経営者としてみる組織のリーダー論の話としても読める深みのある内容でした。
 
 ただ、とことん人生の厳しさを描く伝記小説に近い内容のため娯楽性は控え目で、読むのが楽しいという類の小説ではありません。
 
 
・『南海の翼 長宗我部元親正伝』 著者:天野純希
 

 
 土佐の国人(国衆)から戦国大名に成り上がり一度は四国統一まで果たした武将、長宗我部家ちょうそかべ元親もとちかの波乱の生涯を描いた歴史小説です。
 
 溺愛する息子の死で精神を病み、晩年は家臣からの信頼を完全に喪失してしまった元親をはじめ、戦国武将たちの父親としての側面を切り取る珍しい内容となっています。
 
 単純に小説として完成度があまり高くないという問題はあるものの、家族への深い愛情によって身を引き裂かれる元親もとちかの苦悩に寄り添い、親子間のわずかなコミュニケーションの歪みが後々に深刻な問題を引き起こすという現代にもそのまま通じるメッセージに魅了されました。
 
 
・『忍びの国』 著者:和田竜
 

 
 デビュー作である『のぼうの城』から一気に作風が突き抜け、金にしか興味のない性根の腐りきった伊賀いがの忍びたちと武士が争うバカ小説に変貌を遂げた驚きの二作目です。
 
 まだまだ細かい部分が粗削りだった前作に比べ、痛快娯楽要素と硬派な歴史小説としての風格を成立させるバランス感覚が和田竜節としかいいようのないブレンドのされ方をしており、終始楽しく読めました。
 
 この小説で和田竜という作家の戦略が理解でき、明確に和田竜作品を好きだと思えた一作でした。
 
 
・『小太郎の左腕』 著者:和田竜
 

 
 戦国時代に方々から恐れられた鉄砲傭兵集団雑賀さいか衆の血を引く天才狙撃手の少年雑賀小太郎が、その恐るべき才能ゆえに望まず戦に巻き込まれていく悲劇を描いた歴史小説です。
 
 戦国の少年スナイパーを主役にする痛快娯楽小説と思いきや、『のぼうの城』や『忍びの国』から打って変わり悲劇的なストーリーで、前二作を読んでいるとそのギャップに戸惑います。
 

書籍 3冊

 
・『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』 著者:山口周
 

 
 読んですぐにビジネスや日々の生活に効果を発揮する即戦力の哲学・思想だけを厳選した超実用性に優れた一冊です。
 
 さすがに著者が長年のコンサルタント業で役に立ったと実感できたものを選りすぐっているだけのことはあり、タイトル通り実際に武器として通用する切れ味を持つ哲学・思想が網羅されています。
 
 ビジネス以外でも、どんな分野の問題解決にも役立つ実用性に特化したものだらけなので、読んで一切の損はありません。
 
 本の中で紹介される哲学・思想の中でも個人的に最も感銘を受けたのがレヴィ=ストロースのブリコラージュという考え方です。
 
 この本の中でブリコラージュは「よくわからないけど後で役に立つかもしれないもの」を予測する能力がコミュニティの存続に重要な影響を与え、その判断は「何の役に立つのかよくわからないけど、なんかある気がする」という、グレーゾーンの直観によって支えられると紹介されています。
 
 今現在は役に立たなくても、もしかしたら将来的に役に立ちそうな発明やアイデアを見抜き、適切な時期が訪れるまで寝かせておく、論理ではなく直観重視の感性を“野生的な知性”と表現しており、読んでいて目からウロコでした。
 
 これは今の自分が最も大切にしている“言語化できないセンスを読み解くために感性を磨く”という心構えに近いものを感じ、意味がすんなりと頭に入ってきました。
 
 ブログを書く上でも、こういうことを書いたらPV数が稼げるとか、こういうことを書いたら読者が喜ぶだろうという目先のことではなく、“うまく説明はできないけどそれについて考えると心の底から震えるような興奮を覚えること”を探し、それについて熟考するという感性重視のスタンスを大切にしたいと思います。
 
 
・『川はどうしてできるのか』 著者:藤岡換太郎
 

 
 標高4000メートルのヒマラヤ山脈を乗り越える川。海底を流れる川。火星や土星の衛星タイタンの川など、不思議な川の紹介や、川がどのように生まれ海へと辿り着くのか多摩川を例にして説明するなど、川のメカニズムを解説する地球科学の本です。
 
 プレートと蛇行する川の地形の関係など興味深い話は多々ありますが、全体的に雑学本を読まされているようなやや浅めの手応えで、同じ著者でも他の本に比べると知的な興奮度合いが物足りません。
 
 
・『おとなの教養 -私たちはどこから来て、どこへ行くのか?-』 著者:池上彰
 

 
 タイトル通り教養(リベラルアーツ)を身に付けるための政治・経済・歴史・宗教・科学など、多岐に渡る分野の基礎知識が学習できる一冊です。
 
 感染症(スペイン風邪やペスト)と歴史の関係や、イギリスのロンドンが大気汚染で空気が汚れたため突然変異で真っ黒な羽を持つようになった蛾が正常な蛾より個体数が増えたというダーウィンの『種の起源』を裏付ける事例の紹介など、読んでいてタメになる話は多くありました。
 
 しかし、どれもこれも本当に初歩中の初歩の知識のみで、この手の本を読み慣れている場合は何度も目にした情報ばかりなため、もう一押しが足りません。
 

『おとなの教養』というタイトルですが、中身は中学・高校生の教養レベルですね

 
 マルクスの資本論や、アダム・スミスの国富論、フリードマンの新自由主義の説明やユダヤ教・キリスト教・イスラム教の違いなど、さすがにこの程度の内容は前提で、もう少し踏み込んだことを書いてくれないと浅すぎて本を読んだ気がしません。
 
 しかし、最後まで読むと、本として書かれたものではなく、NHK文化センターでの講義内容をまとめて本にしたものだと分かり、薄さの原因が判明しました。講義の内容をそのまま本にしても構わないですが、さすがに講義を書籍化したものだと表紙にでも分かりやすく表記してくれないと書き下ろしと勘違いします。
 

これならNHKの教養番組『100分 de 名著』のほうが内容が濃いくらいです

最後に

 
 今月も読み慣れた歴史小説ばかり連続で手を付けるなど、どうしても読みやすい本を選んでしまうという甘えが抜けない月でした。
 
 

単純にハードカバーの本が高すぎて手が出せないだけですけどね

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