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【#03】月刊読書記録 2020年11月号

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はじめに

 
 今回の読書記録は2020年11月に読破した本をブログでのレビュー記事あり・なし問わず紹介します。
 
 今月も10月と同様に読んだ本はほぼ全て当たりで読書が充実した月でした。ただ、新刊をもっと読みたいのにどうしても最近の作家の代表作や初期作から順に読もうとすると10年や20年前の小説ばかり読む羽目になるというジレンマがあります。
 
 しかし、アニメや映画、ゲームなどに比べ、小説は最新のテクノロジーの影響をまったく受けない上に、ビジュアルという時の流れの影響をもろに受け錆びやすい要素が存在しないため古い作品でも色褪せず、作品の耐用年数が他の媒体に比べるとズバ抜けて高いのが特徴だなと思います。
 

昔、アニメ監督である神山健治さんが小説を映像化することを“映像汚染”と表現していたのが的を射ていますね

 
 絵や映像は瞬間的な刺激は強くても、時代の空気の影響で酸化して錆びやすいという厄介な性質があり、コンテンツの流行廃りが激しい現代においてはむしろシンプルな活字のみの小説が最も適している気すらします。
 

小説 合計4冊

 
 今月は『百億の昼と千億の夜』という超傑作SF小説に出会えたことが全てでした。
 
 年を取ると琴線が衝撃で切断されるのではないかと思うほど激しく心を揺さぶる作品と出会う機会が減っていくので、このような出会いは何よりも貴重でした。
 
 
微睡みのセフィロト 著者:冲方丁
 
 
 この本はたった200ページちょっとという驚きの薄さで、数時間で読めてしまう薄味のSF小説でした。
 
 やはり自分は最低でも文庫サイズで500~600ページ以上はある分厚い上に濃密で、読み進めるのに気力と体力を激しく消耗する小説が好みなので、ここまで薄いと読みやすいというよりは味気なく、読破した際の感動も何もありません。
 
 
嗤う伊右衛門 著者:京極夏彦
 
 
 京極夏彦さんって江戸時代を舞台にした時代小説も楽勝で書ける器用な作家なのだと分かる興味深い一作でした。
 
 時代小説は、日常の言葉使いから身の回りにある日用品の呼び方、地理や年号に至るまで現代とは異なり綿密な下調べが必要なため下手な作家や頭の悪い作家だと絶対に書けない類のジャンルで、時代小説が書ける人というのは自分の中で作家としてワンランク上の印象を持ちます。
 
 京極夏彦作品なのにも関わらず文庫版で約350ページという、長大な百鬼夜行シリーズとはまるで異なるコンパクトにまとまったボリュームなのがやや味気ない程度で、四谷怪談の現代版再解釈としては抜群の面白さでした。
 
 
百億の昼と千億の夜 著者:光瀬龍
 
 
 今月最も本を読む興奮と感動を与えてくれた神作品としか言い様がない完成度。この小説の凄さが分かる最低限の読解力が自分に合って良かったと心底思えた一冊でした。
 
 レビューのほうも、本当に心の底から好きな作品にありがちな賛辞の言葉の羅列で何を書いているのかよく分からない文章になっているのがその証拠です。
 

 
 この50年以上昔の傑作小説に出会えたことで、思い切って映画やゲーム・アニメではなく読書中心の生活に切り替え、しかも最新の作品を追うのではなく自分の感性重視で作品選びをする姿勢が正解だったと確信を持てました。
 
 
火天かてんの城 著者:山本兼一
 
 
 この小説は前情報がまったく無い状態で偶然に映画の予告のほうを先に見つけ、戦国時代に織田信長の命令で大工が安土城を作る話って面白そうだなと興味を惹かれ手に取ったら大当たり。この直感で良さげと判断してその通りだった時の快感がたまらない一作でした。
 
 織田信長と凄腕の宮大工と安土城とハードスケジュールの築城計画という組み合わせは無敵だと思います。
 

その他書籍 合計1冊

 
一度読んだら絶対に忘れない 日本史の教科書 著者:山崎圭一(ムンディ先生)
 

 
 これは本というかただの教科書なので、本としてスラスラ読んでしまうと勉強にならないため時間をかけてじっくり読み進める必要があり、読み終わるまで約2週間くらいかかりました。そのため、この一冊のせいで他の本はほぼ読むこと叶わず終い。
 
 全編池上彰さんのニュース解説のような分かりやすさで、毎ページごとにノートにメモを取りながら読み進めたため、読書というか日本史の勉強を集中的にしただけでした。
 
 NHKで『週刊こどもニュース』を担当していた池上彰さんと同じく、書いているのが現役の高校教師でありYouTuberという、日々子供相手に授業や講義をして相手がどこにつまずくのかを適切に理解している人なので先回りして疑問を潰してくれるため日本史が苦手なほど効果が実感できます
 
 元ガイナックスの社長であり大阪芸術大学で生徒相手に講義もしていた岡田斗司夫さんもそうで、このような子供を相手に長く講義をした経験のある人は最初から知識が無い相手を想定し、読者側の読解力をまったく期待せず易しい言葉で説明しながら深い理解へと導く癖が付いているため、覚えやすさが段違いでした。
 

読者の知識量を常に低めに想定しながら内容を薄めず説明できるというのも一種の熟練した技術ですね

最後に

 
 今年から本格的に読書主体の生活に切り替え、色々な本を気の向くままに読み続けてきた結果、そろそろ自分にとって適切なページ数や難解さの好みが掴めてきた感があります。
 
 ようやく単に有名な本を読むのではなく、自分の勘で良さげな本を選ぶというスタイルが馴染み、読書熱が高まる一方です。
 
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