著者 | 佐藤航陽 |
発売日 | 2017年11月30日 |
難易度 | 普通 |
オススメ度 | ☆ |
ページ数 | 約225ページ |
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本の概要
この本は、資本主義というお金を基準に物の価値を計る時代はもう過ぎ去り、これからはお金を貯めるよりも自身の価値を高めるほうが有利となる価値主義の時代が訪れるという内容です。
価値主義は、資本主義で無価値と見なされた影響力、信用、共感、好意、感謝など、お金に換算できない内面的な価値がテクノロジーの発達で可視化される時代と主張されています。
正直、岡田斗司夫さんが言う評価経済の評価部分を価値という言葉に置き換えたようなもので、主張にそれほど新鮮味はありませんでした。
ただ、IT企業の経営者である作者が語る、SNSなどのテクノロジーの発達が人間の内側に眠っている自覚なき欲求を掘り起こし、それを満たすための価値もテクノロジーの進歩によって次から次に生み出されていくという話のくだりはSF小説を読んでいるような知的な興奮が味わえます。
資本主義から価値主義へ
この本で一番驚いたのは、価値というものが自分が考えているような良いものは評価されダメなものは淘汰されるという単純で画一的なものでなく、今後テクノロジーと連携し価値自体が多様化していくという主張です。
これは最近やたら気になっている「なぜこの程度の作品が爆発的な人気になるのか?」という、創作物のクオリティと評価の落差が激しいという違和感にも通じます。
この本を読むと、これまで漠然と思っていたクオリティが高いものが正しいという考え方は時代遅れで、クオリティの高さも変わらず大切なものの、それはもはや価値を決めるイチ要素に過ぎず、作り手を応援したいという好意や、その作品の話題に触れて楽しいかどうかなど、これまでは軽視されていた感情面の価値を大切にするような変化が起こっていることがよく分かります。
もはや新しい時代には、作品の質の良し悪しだけで価値を判断する自分の考え方は通用しないのだと気付かされました。
中央集権から分散化へ
この本では、資本主義は中央集権的に一部の企業や人間が力を持ち全体を管理していたのに対し、今後は経済の大半の仕組みが分散化し、これまで影響力の中心に居座っていたハブとなる存在がいなくなると書かれています。
これまでも分散化という言葉自体は何度も本やネットで見掛けましたがこの本の内容が一番しっくりきました。
分散化の例としては、今までメディアが独占していた影響力がネットによって個人に分散化し、一人一人のインフルエンサーの発言力が増すことや、国家の発行する通貨が独占していた価値がビットコインなどのトークンエコノミーで分散化することなどが挙げられています。
これまでは分散化とはネットワークなど、単なるテクノロジー関連の話題だと思っていましたが、テクノロジーの発達は人間の隠された欲求を刺激し社会はそれに影響を受けるため、結局それは巡り巡って社会全体を変容させるのだとこの本を読むとすんなり理解できます。
よく現代は価値観が多様化しているとか、情報革命によるパラダイムシフトのまっただ中なのだという主張も、実は世界の分散化の影響があるのではないかと考えると、身の回りで起こっている急激な変化にはほとんどこの分散化が潜んでいるのではという視点を持てます。
今まで色々な本で重要な問題として目にしてきたはずの分散化というキーワードがこの本を読むことでなんとなく輪郭を掴めました。
最後に
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』という本を読んだ際も思いましたが、お金の影響力だけが強くなり資本主義が暴走した結果、今度は社会全体で価値を重視するという強力な揺り戻しが起こっているのだと考えると今現在起こっている現象は納得がいきます。
この本を読むと、お金より価値を重視し、かつ多様化していく流れに適応できるかどうかが今後の人生を左右する分かれ目であると気付くことができます。
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