えんみゅ~ -えんためみゅーじあむ-

書評を中心にしたエンタメ作品総合レビューブログ

えんみゅ~

薫るたつき監督の優しさ 「ケムリクサ」 〈レビュー・感想〉

f:id:chitose0723:20190724161218j:plain

PV

評価:70/100
作品情報
放送期間 2019年1月~3月
話数 全12話
アニメ制作会社 ヤオヨロズ

短評

 
 『けものフレンズ』と同じく、謎に包まれた世界の真相が次第に明らかになっていくという刺激的なスタイルは踏襲しているものの、背景がずっと暗めで単調なのと、キャラクターがやや薄く物足りない部分が多い。
 
 ただ、たつき監督の作風は相変わらず摩訶不思議な中毒性があり、アニメとしての完成度以上の魅力が備わり、『けものフレンズ』同様、作品に愛おしさを感じてしまう。
 

異世界紀行としては単調な旅路

 
 たつき監督の前作である『けものフレンズ』(一作目)が、かばんちゃんとサーバルがジャパリパークを旅しながら様々な種類のフレンズ(けものたち)と出会っていくという絵的に賑やかだった作りに対して、本作はメインキャラクターがガチガチに固定され、ほぼ絵面もやり取りも一話から最終話まで変化がないため、けものフレンズの後だとやや単調さが目立ちます。
 
 景色も一応細かい建造物や遠景が変化していくものの、基本は廃墟に赤い霧が立ちこめた場面が多く、どうしても旅をしている割に旅情が乏しく感じました。
 
 そのため、こんなに遠い場所まで来てしまったという不安と達成感が入り交じるような感情が湧きません。しかも、水が大事という割に水不足を強調することもなく、旅の道中の緊張感もやや不足気味です。
 
 それに、『けものフレンズ』は、最初自分たちが使う乗り物が故障しておりそれをフレンズたちと一緒に修理するという工程があった分、乗り物に自然と愛着が持てました。それが、本作はいきなり全てのお膳立てが整った状態で性急に旅が始まるため、何をやってもイマイチ手応えを感じません。
 
 物語が進むと奇妙な世界の謎が次第に明らかになっていくという展開も、『けものフレンズ』がただのゆるい作品だと思い油断していると背景に何か巨大な秘密が隠されている気配が漂い出しゾクゾクする興奮があったのに対し、こちらは最初から謎が大っぴらで隠そうともせず、世界への認識を小刻みに変化させていくような工夫も弱く、物語にメリハリがありません。
 
 全体的に荒廃した世界の雰囲気はうまく出せているのに、『けものフレンズ』で割と丁寧に描写されていた部分を省略し、しかも設定上、人との出会いや別れも描けないせいで旅が寒々しくなってしまった印象です。
 

かばんちゃんとサーバルが恋しくなる閉じた姉妹の関係性

 
 『けものフレンズ』がかばんちゃんとサーバルに象徴されるように、まったく異なる習性を持つフレンズと出会い、お互いの個性を理解し合いながら仲間を増やしていくという作りだったのに対して、本作はどうしても設定的にりんたち家族(姉妹)の関係性に終始するため、よそ者であるわかば以外は最初から最後まで登場人物の関係性に変化が生じずやや退屈でした。
 
 余談ですが、わかばというキャラクターは、最初かばんちゃんの好奇心とサーバルのフレンドリーさを雑に足しただけの悩みがまったくない脳天気なだけの人物に見えました。しかし、このTVアニメ版の元となった同人版を見るとむしろかばんちゃんのほうが同人版のわかばの影響下で生まれたキャラなのだと分かり納得。
 
 

 
 臆病者で自分に自信が持てないかばんちゃんと、そんなかばんちゃんの長所を誰よりも深く理解し優しく支え続けるサーバルのコンビは、最終話で二人の混じりっ気のないド直球な友情物語に泣いてしまうほど好きでした。
 
 本作はやや同人版の設定に引っ張られすぎており、どのキャラにも心揺さぶられることはなく、最後の最後までイマイチ乗れませんでした。
 
 短編用に作ったあまり変化・成長の余地のないキャラ設定をうまくTVシリーズ用に調整できなかったのか、りんの心情意外、ここまで姉妹間の関係性に変化がないと旅ではなくただの仲良し家族の長距離移動にしか見えません。
 

たつき監督の優しい作家性

 
 『けものフレンズ』と本作を見て、やはりたつき監督の持つ独特の演出のリズム感や、話し運びの癖は不思議な中毒性があり、どれだけ細かい不満があっても最後まで目が離せない引力があります。
 
 物語の最後で謎に包まれた世界の真相が明らかになると思いきや、謎は割とそのままほったらかしで、すでにこの場所を去った人が自分たち今を生きる者へ残した優しさや思いやりに出会うという、謎の解明よりも後世に託した思いが誰かに届きそれが世界をより良い方向へ変えるというメッセージ性を強調するところがたつき監督らしいなと思いました。
 
 たつき監督の作品は技術的には不満だらけでも、それを補って余りある溢れんばかりの思いやりに満ちており、ほんのりと温かい余韻が残るのは『けものフレンズ』と同じでした。
 

最後に

 
 元々短編だった作品を無理やりTVシリーズ化したせいでところどころ無理が生じている箇所があり、しかもかばんちゃんとサーバルのコンビが大好きだったので、どうしてもそれに匹敵するほど魅力のあるキャラがおらず、『けものフレンズ』なみにはハマれませんでした。
 
 しかし、たつき監督の作品には不思議な魔法がかかることが改めて分かり、次作への期待がより膨らみました。