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[読書]エンタテインメントの作り方 売れる小説はこう書く 〈レビュー・感想〉 リーダビリティ(読みやすさ)というプロ意識

 

新世界よりの面白さの秘密が分かる一冊

 
 この本を読もうと思ったのは、作者である貴志祐介さんが以前書いたSF小説『新世界より』が大好きで、サンプルを読んでいると目次に“新世界よりの舞台が1000年後の日本だった理由”という項目があり、新世界よりのメイキング的な話が読めるかもと期待したためです(ただその部分は読んでみるとオマケ程度のボリュームでした)。
 
 昔、『マルドゥック・スクランブル』にドハマリした際に読んだ『[冲方式]ストーリー創作塾』という、冲方丁さんが自作のSF小説やアニメ(蒼穹のファフナー)・ゲーム(カオスレギオン)のシナリオをテキストとし、アイデアの作り方をレクチャーするという本が非常に面白かったので、あれと似たようなタイプの本なのではないかと思ったら、予想通りかなり近いものでした。
 
 新世界よりは、自分の中の非常に発見が困難な場所にあったSFのツボをピンポイントで刺激してくれた作品で、これを知る前と後でSFの好みがガラッと変わってしまったほどです。それは、主題などの目を引くような箇所よりも、どちらかと言うとサスペンス的な違和感の散りばめ方や、リアリティの構築方法といった目立たない礎石の部分です。
 
 小説を読んだ際、まず最初に心を奪われたのはカヤノスヅクリという1000年後の日本に生息する架空のヘビの緻密なディテールと、そのヘビ一匹の生態から1000年後の生物が歪な進化を遂げた様をさり気なく想像させる手並みの鮮やかさでした。
 
 作家のアイデアの発想法や、それを踏まえた作者自身による自作の解説は並の小説に勝るほど読み応えがあり好きなので、この本も貴志祐介流の面白いアイデアの出し方や育て方を指南するような内容なのかと思いきや、それよりも本作を読んでいて一番伝わってきたのは貴志さんのエンタメ小説を書く際の姿勢の良さでした。
 
 リーダビリティ(読みやすさ)を何よりも重視し、作者の自己満足や独りよがりは全否定。読者を飽きさせてはいけない。読者を無用に混乱させてはいけない。最近の若い世代が読書離れ気味で本を読む体力が落ちているならそれに合わせ、読みやすくする努力をする。編集者や第三者の批判や意見も作品を良くするのに効果的なら耳を傾けるべき、と内容はしごく基本的なことながらその徹底ぶりが凄く、逆に一貫し過ぎているため同じような発言を何度も繰り返しているようにすら見えます。
 
 まえがきに出てくる、
 
“京都三條の糸屋の娘、姉は十六妹は十四 諸国大名は弓矢で殺す、糸屋の娘は目で殺す”
 
 というキレイにまとまっているだけの詩が、読者の想像力を刺激しない自己満足すぎる内容で大嫌いという話が延々続き、最初はなぜそこまで嫌うのか理解できないものの、読み進めると本の趣旨がここに集約されていることが分かります。
 
 この本を読むと、これほどまでに自己満足や自己陶酔に厳しく、リーダビリティ(読みやすさ)を高め雑音を排除することに余念がなく、読者を物語に没入させることで、楽しませ、驚かせ、そして何よりも深く考えさせることに全力を尽くす姿勢が新世界よりの異常な中毒性の元なのだと分かり、より作品が好きになりました。
 

最後に

 
 新世界よりについて多少こぼれ話のようなものが読めたらいいな程度の軽い気持ちで読み始めたら、貴志祐介さんの徹底した読者目線を貫くプロ意識に触れられ、また新世界よりを最初から読み直したくなりました。
 
 
エンタテインメントの作り方 売れる小説はこう書く (角川新書)

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