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【海外ドラマ】二つの意味で階段から転落してしまう残念なシーズン |『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン5』| Netflix | レビュー 感想 評価

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トレーラー

評価:80/100
作品情報
配信日 2017年5月30日
話数 全13話
アメリカ
映像配信サービス ネットフリックス

ドラマの概要

 
シーズン5は、登場人物の言動に一貫性がなく、国際問題を扱う内容の割にスケール感も出せていないと、シリーズでも際立って脚本に不備が目立つシーズンでした。
 
映像面も無難に仕上げているだけで、これといって印象的なショットもなく物足りなさだけが残ります。
 

あらすじ

 
共和党の代表であるコンウェイとの大統領選において劣勢に立たされるフランシス(フランク)・アンダーウッドは、イスラム過激派組織ICOによるテロへの恐怖を自身の選挙に利用しようと画策する。
 
フランクは国内でICOを装ったテロをでっち上げることで、アメリカ国民を恐怖でコントロールし、大統領選を有利に進めようとするのだが・・・。
 

コツコツ積み上げてきた蓄えを切り崩すだけの弱々しいシーズン

 
今作の最大の不満は、ホワイトハウス内の政治的駆け引きのスケール感と、政界の住人たちの人間ドラマを両立させる脚本や演出周りがこれまでと比べ練り込み不足なことです。
 
これまでは完璧とは言わなくとも、国際問題を扱っていたらある程度背後に世界情勢を匂わせるように周到な仕込み(国連での会議シーンや、大規模な演説シーン、盛大な国葬や、各国の賓客が参加する豪華なパーティなど)を丁寧に盛り込み説得力を持たせていたのに今シーズンはそこら辺の細やかな配慮が欠けており物足りません。
 
そのため、ほとんど室内での身内同士の会話だけで物事が進んでいるように見え、非常に語りの視野が狭く感じます。
 
アメリカ国民の政権への不満を示す重要な描写もホワイトハウス前の雑なデモや、ただの政治番組や討論番組の一部を切り取って流すだけで適当に済ませてしまい、結果アメリカ国民の顔も世界情勢の気配も希薄でアメリカを裏で操っているという説得力がありません
 
それに話の目的があっちへこっちへと頻繁にブレるので、現状何をしているのか見失いがちで、会話の内容がイマイチ頭に入ってきませんでした。『ハウスオブカード』を見ていて、これほど集中力が途切れ、何度も巻き戻しては会話の内容を再確認するという作業を繰り返したのは今シーズンが始めてです。
 
シーズン4のラストが過去シリーズの中でも抜きん出て衝撃と興奮を残す余韻だっただけに、このストーリーがただ萎んでいくだけのような弱々しさは期待外れでした。
 

切り捨てられるだけの可哀想な新キャラたち

 
今シーズンは人物の描き方もおざなりで、フランクの強力なライバルであるはずのコンウェイは途中からどうしてしまったんだと心配になるほど人柄が豹変し、今度は新キャラが出てきたと思ったら何の意味もなく退場させられるだけと、脚本の迷走が目に余ります
 
ダグと関係を持つローラ・モレッティなんて、ダグのある決断のせいで死亡した夫のことで一悶着あるのかと思いきや、恐ろしいまでにあっさりと役割を終えるので、ただ未亡人とのSEXシーンを見せるためだけに登場したのかと勘ぐってしまうほど扱いが雑で辟易しました。
 
マッツ・ミケルセンの兄であるロシア大統領のペトロフ役のラース・ミケルセンもほんとにちょこっとだけ再登場してその後は音沙汰もなく、逆に贅沢だなと思うような使い方で、やや呆れます。
 
『ハウスオブカード』は上昇志向の塊のような野心あふれる人物の存在感が持ち味なのに、今シーズンは登場人物への愛がまったく感じられません。結果これまで輝いていた人物の魅力は陰ってしまい、今シーズンから登場した人物はそれほど印象に残らずと、全体的に評価を落とすだけのシーズンになってしまっており非常に残念でした。
 

脚本の不備によって生じた最も残念な影響

 
個人的に今シーズンで最もガッカリさせられたと言っても過言ではないのが、終盤に主人公フランクが第四の壁を超えて見る者に語りかけてくる、作り手側がこの作品を通して最も言いたかったであろう重要なメッセージがしょぼすぎることです。
 
いくらなんでも過激な悪事ばかり重ねるような作品の主人公がコチラ側に語りかけてくるメッセージとしては容易に想像できる程度の内容でしかなく、そのあまりの工夫の無さに落胆しました。
 
悪事の片棒を担がされ、共犯関係を強いられるような構造の本作において、このような主張は最初から分かりきっており、蛇足な印象しか受けません。
 
ここの主張が弱いとフランクという主人公まで薄っぺらく見えるので、こんな適当な撮り方ではなく、最低限コチラの想像を上回るようなスピーチを披露し思わず目を見開かされるような体験を味わいたかったです。
 

最後に

 
スケール感はなく、人物の描き方はお粗末と、完成度はシリーズ中でもワーストでした。
 
途中何度も眠くなるほど精彩を欠いてはいるものの、そこは腐っても『ハウスオブカード』だけに並のドラマに比べたら見応えはあります。
 
ただ、主演のケヴィン・スペイシーがスキャンダルを起こしたためフランク・アンダーウッドというカリスマ主人公が登場するのは今シーズンが最後なのにも関わらず、このようなパッとしない完成度なのは致命的で、次が最終シーズンなのに続きにまったく興味が持てません。
 

ハウスオブカードシリーズ

 

 

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