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闘争も地獄、和解も地獄 「ウォーキング・デッド シーズン8」 〈レビュー・感想〉

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PV

評価:85/100
作品情報
放送期間(アメリカ) 2017年10月~2018年4月
話数 全16話
アメリカ
ネットワーク AMC

短評

 
 ニーガン率いる救世主との対立に一応の決着が付くが、ひたすら見る者の倫理観を揺さぶるキツイ展開の連続で、良くも悪くもこれまでのシリーズでも屈指の陰鬱さ。
 
 話が重く暗い上に、後半は勢いが失速し展開がダレ気味なのも相まって、あまり見やすい作りではないのが少々欠点。
 

血の通った苦悩

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 今シーズンは、作中に何度か繰り返される「情けは怒りに勝る」というセリフを体現するような、ひたすらに怒りを理性で抑え続けなければならない展開が続き、かなりキツイものがありました。
 
 敵対関係にあっても争いにより決着をつけるのではなく、互いに相手がした暴力を許し、歩み寄る努力をしようという非常に文明的な理想を貫いた内容なものの、その過程は情け容赦がなく見ていてひたすらに精神が疲弊しました。
 
 シリーズが長く続くドラマでしか表現できない、これまで共に歩み、信頼を築いてきた仲間たちが凄惨な目に遭い、報復に走りたいという感情にブレーキをかけられ続けるという、もはやストレステストを受けているような気分で、ここまで行くと見ていて楽しいという感情は一切起こりません。
 
 自分たちの仲間を殺しヘラヘラしている敵を殺そうとすると誰かがそれを制止する。敵を皆殺しにしたら全ての決着がつくような場面でも、常にそのような行為に異を唱える者を配置する。と、わざと敵に殺意を抱かせそれをとがめられるというシチュエーションを何度も繰り返されるため、自然と登場人物たちの葛藤や悩みが疑似体験でき、憎々しい相手を許すという精神的苦痛を伴う決断に賛成する者と反対する者、双方の気持ちが生々しく伝わってきました。
 
 しかも、最終的に相手を許すという理想論が勝つ単純な着地でもなく、理想と現実を戦わせ、どちらにも勝利させないという、見る者を悩ませ考えさせることだけに特化したような余韻はシリーズの中でも屈指のインパクトがあります。
 
 リックたちが重ねる行為も完全に一線を越えてしまっており、戦意を喪失した敵を処刑するとか、協力関係にあっても用が無くなれば処分するなど、このシリーズがどこに向かっていくのか不安になるくらい人としての道を外れ、最終話を見終わっても暗澹たる気持ちになるばかりでした。
 
 理想が大事と説教してくるのではなく、何が正しいのかを常に自問自答し足掻いている者たちの姿を見せることで、見る者に同じ態度を要求させるという語りの距離感は、作り手も共に正解のない問いに悩んでいるんだなという真摯さが伝わってきます。
 

シリーズ屈指の面白さの前半と、突如失速し出す後半の激しい落差

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 本作のテーマ性は素晴らしいものの、ドラマとして面白いかと言われるとかなりキツイものがありました。
 
 前半はリックたちアレクサンドリアとヒルトップ、王国の三つのコミュニティの連合勢力と救世主との激しい戦闘が繰り広げられ、次から次に予想外の展開が起こり、見始めると止まらなくなるほど手に汗握りました。
 
 しかし、前半の派手な銃撃戦や、ウォーカーを使った大規模な作戦で予算を使い果たしのかと思うほど後半は退屈でした。前半の凝ったカメラワークもセンスの良い画面の構図(木の上にいる監視者と下にいるウォーカーをやや引いた絵で同じ画面内に納める、など)もなく、重要な登場人物の最期も多く描かれるわりにあっさりしており、パッとしません。
 
 役者に深刻そうな顔をさせ、ひたすら悩ませていれば尺が持つと思っているのか、演出にいまいちキレがなくなり見ていて眠くなることが多くありました。
 
 一応重いテーマを扱っているだけに、登場人物たちが苦悩するシーンはそれっぽい見映えにはなるものの、何シーズンも悩んでいる人もいれば、完全に悩みが重複している人もいるしと、誰も彼も悩ませ過ぎで、逆に一つ一つの悩みが薄く見えます。
 
 『ゲーム・オブ・スローンズ』のように、表面上は強がって気丈に振る舞っているのに、言動の端々でその人が心の奥底に抱える悩みがふっと浮かび上がるような高度な脚本ではなく、全員今悩みを抱えて苦しんでいますと表情に出して見せてしまうため、苦悩するシーンが若干しつこく感じました。
 
 救世主側の内通者のある人とか、いつもあんなに深刻そうな顔をしていたら一発で怪しいとバレるだろうと思うくらい不自然で、見せ方が安易過ぎるだろうという不満が残ります。
 

不満あれこれ

 
 まず、今シーズンで一番気になったのはゾンビの存在感の無さです。もはやただの背景の一部程度の役割しかなく、気を抜いているとこれがゾンビものだということすら忘れてしまうほど陰が薄く、ただピンチを演出したい時にどこからともなく現れるだけでいくらなんでも便利に利用しすぎだと思います。
 
 これまでは物語に一切関係しないゾンビの習性を淡々と描く描写や、人体が破損する特撮が豪華に用意されていたのに、今回はそこが弱く、ストーリー上の都合のみでゾンビが動いているようにしか見えませんでした。
 
 人間の都合で動くのではなく、畏怖の念まではいかなくても、もう少し得体のしれない何を考えていて、どう動くのか予想がつかない生き物という距離感は保って欲しかったところ。
 
 後、非常に些細な不満ですが、銃撃戦が多い割にプロップガンがちゃちなものが多いことです。
 
 オートマチックのハンドガンはブローバックしていないし、アサルトライフルをフルオートで撃っているのに、空薬きょうがまったく飛び散らない場面が多い(しかもやらなければいいのにたまに銃をアップで映す)など、かなり銃器が安っぽく見える部分が多く、やや違和感がありました。
 

最後に

 
 テーマやメッセージの描き方は妥協が無くそこは圧倒されました。
 
 ただ、役者やキャラクターの魅力にやや依存しすぎな後半の退屈さは若干目に余るものがあります。
 
 それより、今シーズンはもはや見ていて楽しいと感じる瞬間はほぼ無く、ただただ辛いだけでこのシリーズ大丈夫なのかなという不安のほうが強く残りました。