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【洋画】麻薬戦争の在り方そのものをシリーズとして体現させたような傑作! |『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』| レビュー 感想 評価

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トレーラー

評価:90/100
作品情報
公開日(日本) 2018年11月16日
上映時間 122分

映画の概要

 
この作品は、CIAと麻薬カルテルとの戦いを描いたサスペンス映画『ボーダーライン』の続編です。
 
傑作だった前作に別の角度で光を当てた結果、潜在していた魅力をさらに引き出して見せたシリーズものとして理想的な続編でした。
 
単体作品としてはキレイにまとまっている前作には及ばないものの、今作を見た後だと一作目の登場人物たちの行動により奥行きが生まれ、シリーズに深みが生じました。
 

あらすじ

 
アメリカ国内で民間人に大量の死傷者を出す自爆テロが発生する。
 
アメリカは、テロリストたちがメキシコの麻薬カルテルの手引きでアメリカ・メキシコ国境を越え不法入国したと断定。アメリカはテロを防止するためメキシコ政府には内密に、CIAによるメキシコ国内での麻薬カルテル殲滅作戦を指示する。
 
CIAのマット・グレイヴァーはカルテルを直接攻撃するのではなく、カルテル同士を互いに潰し合わせる作戦を立案。戦友であるアレハンドロをチームに引き入れ、メキシコで巨大な勢力を誇るカルテルのトップ、レイエスの娘イザベルを誘拐し、それを敵対するカルテルが誘拐したかのように偽装工作する。
 
しかし、アメリカの違法な極秘作戦を目撃したレイエスの娘が作戦中のアクシデントにより逃亡してしまい・・・。
 

労苦が滲み出る、押し潰されそうなほどのセリフの重み

 
前作は、映像作家として世界トップクラスの実力を持つドゥニ・ヴィルヌーヴが監督し傑作映画に仕上げていましたが、今作は前作でやや控え目だった登場人物たちの人間味をより引き出せており、シリーズの続編としては理想的な仕上がりでした。
 
正直、単体の映画として見た場合は監督の演出力の差はじめ、前作のほうが遥かにエンタメ作品として優れており好きです。
 
しかし、今作は前作で物語上の要請によって隠蔽されていたアレハンドロとマットの人間らしさ(娘想いの父であったアレハンドロや、職務と戦友との絆の間で揺れ動くマットなど)を暴きだし、僅かながら存在したヒロイックさという特権すら二人から奪い取り、確かなものなど何もない麻薬戦争に身を投じることの地獄をより強調して見せることに成功していると思います。
 
ベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロは前作でも麻薬カルテルへの激しい憎悪を十分描けていたものの、今作ではさらにそこにジョシュ・ブローリン演じるマット側の組織人としての視点が加わったことで、より物語に厚みが増しました。
 
殺す側と殺される側が移ろいやすく、前作では特別待遇のミステリアスな殺し屋として描かれていたアレハンドロがほんの些細な出来事でメキシコの惨状を形作る些末な歯車の一つ程度に引きずり下ろされるという続編の作り方は、よくこんなアイデア思い付いたなと驚かされます。
 

不満あれこれ

 
この映画で一番の不満は銃撃戦のボリュームが少なく、肩透かしだったことです。
 
トレーラーを見た限りでは前作よりもガンアクション部分を強化し、銃撃戦の描き方でプロフェッショナルさを演出するのかと思いきや、撃ち合いが始まると戦いに参加していない人間に視点が移ってしまい、正面から描かれないのでややガッカリでした。
 
それに、前作はエミリー・ブラント演じるケイトに視点が集中し、誰と誰が戦っているのかもイマイチ把握できない混沌とした戦場に放り込まれ、味方が本当に味方なのかすら怪しい状態で慌てふためくというサスペンスがあったものの、今作は割と敵・味方全員の素性を最初に明かしてしまうため、登場人物に対する印象にあまり変化が生じず、やや味気ないです。
 
『ウィンド・リバー』もそうでしたが、テイラー・シェリダンの脚本は割と見せ場や終盤の衝撃展開に一極集中気味なきらいがあり、今作はその傾向がより顕著で、満遍なく緊張が散りばめられている前作に比べるとどうしても満足度では劣ってしまいます。
 
それと、自爆テロを長回しで撮るという手法はドラマの『Xファイル』シーズン10でもやっていましたが、もういい加減見飽きて陳腐なので避けて欲しかったです。
 
せめてこれをやるならすでに既知の人物が現場に居て、テロに巻き込まれる未来が読めてしまいハラハラさせるなど、何でもいいのでもう一工夫は入れて欲しいと思います。
 

最後に

 
前作に比べると細かい不満の量が増えました。
 
しかし、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の後釜という誰も引き受けたくはないであろう大役を果たし切ったステファノ・ソリマ監督と、同じく前作の撮影監督のロジャー・ディーキンスに勝るとも劣らない見事な撮影で映像の質を落とすことなく引き続き物語に没頭させてくれた今作の撮影監督であるダリウス・ウォルスキーの手腕は見事でした。
 

余談

 
途中自分たちが誘拐して監禁しているイザベルを今度はDEA(麻薬取締局)のフリをして救出しにきたかのような芝居をするというシーンがイザベルに対して悪質なドッキリを仕掛けているようにしか見えず、不謹慎にも笑いそうになりました。
 

 

 
 
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