トレーラー
評価:90/100
ジャンル | 一人称アドベンチャー |
発売日(日本国内) | 海外:2017年4月25日 日本:2018年3月26日 |
開発(デベロッパー) | Giant Sparrow |
開発国 | アメリカ |
ゲームエンジン | Unreal Engine 4 |
ゲームの概要
この作品は、様々な謎が隠されたフィンチ家の屋敷を探検していく主観視点のアドベンチャーゲームです。
アドベンチャーゲームとしては字幕とナビゲーション機能を融合させる斬新な試みがある程度で、それ以外はゲーム性がほぼ皆無でウォーキングシミュレーターのような感触です。
ただ、極限まで磨き抜かれたフィンチ家の人間たちの死の間際を切り取っていく物語体験は出色の出来で、一度経験すると二度と忘れられないほど深く心に刻まれる珠玉の完成度です。
あらすじ
17歳になりフィンチ家当主の座を継いだエディス・フィンチは、自分たちフィンチ一族の歴史を知るため、11歳までの幼少期を過ごしたフィンチ家の屋敷を訪れる。
建物のあちこちに奇妙な仕掛けが施され、子供部屋も多くが厳重に封印されているおかしなフィンチ家の屋敷。そんな見慣れたはずの屋敷の中でも、立ち入ることが許されなかった部屋、存在自体知らされていなかった隠し部屋を調べていくうちに、エディスはフィンチ一族が抱える秘密と対面することとなり・・・・・・。
くすぐったいような幼少期の思い出と濃密な死の気配が同居するフィンチ家のカラクリ屋敷
ゲームをプレイしてまず連想した作品がフロム・ソフトウェアの一人称ホラーゲームである『エコーナイト』でした。
フィンチ家の人々が死の間際に垣間見た光景を次々に覗きながらその人の人生に想いを馳せていくという語りの手法と、死者たちの生前の記憶を追体験していく手法に似た感触を覚えます。
しかし、『エコーナイト』のようにストレートにホラーに徹するのではなく、空想を交えて本当は残酷な死の光景を柔らかく描いていくという手法がより死を強く意識させる働きを強めており、ホラーゲームとはまた質の異なる恐ろしさや不気味さを感じました。
本作はプレイヤーの感情の揺さぶり方が大変秀逸で、北風と太陽の寓話のように、怖がらせるという手法一辺倒だけでなく、時折りフィンチ家の何気ない家族の思い出にほっこりさせてみたり、かと思いきやまたおとぎ話のような軽めのタッチで陰惨な話を語って見せたりと、ストーリーテリングの手数の多さや、押したり引いたりという巧みな駆け引きのセンスに驚かされます。
真実をありのまま語るのではなく、常にプレイヤーの想像の余地を残すという語り口は、語り部であるエディスの祖母にあたるイーディおばあちゃんがドラゴンの滑り台を作っている途中で事故で亡くなった夫をドラゴンに殺されたという話に置き換えているように、あまりにも死に触れ過ぎ、なんとか悲しみを和らげようと家族の死を物語化して耐えようとするフィンチ家の死との向き合い方に想いを馳せられ、切なくなります。
フィンチ家のそれぞれの人物の死の間際のエピソードは、ほぼ時間に取り残されたようなフィンチ家が舞台のため、カレンダーなどの情報や手帳の家系図を見ないと30年、40年の月日の隔たりがある話もパッと見いつの時代なのか見分けが付きません。
この、どこまでが真実でどこまでが空想なのかハッキリと線引きしない語り口や、時代感覚が極めて希薄であるという足元がおぼつかない不安により終盤になると自分がフィンチ家の人物たちと同化し、一族の呪いに引きずりこまれ戻れなくなるような激しい恐怖に襲われました。
ただ、一周目はフィンチ家の悲劇の歴史に感情が振り回されるばかりで、この作品の真髄が分かるのは冷静にプレイ出来る二周目以降でした。一周目はただのオブジェにしか見えなかった何気ない物や、ただ普通に通過しただけの場所から濃密な死の気配が漂い出し、一周目とはまた違った景色が顔を覗かせます。
二周目以降はサム・フィンチの妻としてフィンチ家に嫁いできたケイが残したピンク色のバスルームや、キッチンに積まれた大量の缶詰、カエルの鳴き声や牡鹿の姿にまで濃い死の影を見るようになり、これほどまでに作品全体が死に満ち満ちていたのかと気付き、改めて驚愕させられました。
不満あれこれ
本作で最も残念なのは物語の主要部分以外のローカライズが徹底されていない点。
あれもこれも日本語に直してしまうと作品の雰囲気を損なうため限度はあるものの、屋敷のそこら中に文字として物語や情報が綴られているので、「英語や文字の筆跡の癖が読み取れればさらに個々のエピソードが深く堪能できるんだろうなぁ」というもどかしさに終始悩まされ続けました。
それに、移動速度が遅いのがずっと不満だったものの、終盤なぜエディスは素早く移動できないのかが説明されると納得して諦めざるを得ず、それならそれでもう少し演出上の意図を匂わせる工夫が欲しかったです。
最後に
クリアまで約2~3時間ほど。
ゲーム性がやや弱めという欠点など軽く吹き飛ばすほど、気が遠くなるほど膨大な量の試行錯誤を重ね、無駄を徹底的に削ぎ落とし、練りに練り上げたであろう珠玉の物語体験が堪能できる大傑作でした。
この物語の破格の完成度には参りましたという感想しか浮かびません。