著者 | ランドール・ササキ |
発売日 | 2010年12月21日 |
難易度 | 普通 |
オススメ度 | ☆ |
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本の概要
この本は、世界中の海から引き上げられた沈没船やその発見量、沈没船の中に残っていた遺物や、沈没船の船体構造などを研究する水中考古学を扱った内容です。
沈没船と世界史と絡めて見せるというアプローチが非常に面白く、世界史を見事にエンタメ化することに成功しています。
沈没船という補助線が浮上させる歴史のドラマ性
この本は、沈没船・世界史というこの上なく親和性が高そうな二つの単語が並ぶタイトルに魅了されました。沈没船という歴史の薫り漂うワードからある程度面白さは予想できますが、実際は事前の予想を超えて知的な興奮を味わえます。
最初は考古学者が自ら海にダイビングし、沈没船を調査したことで歴史的な発見がされたというような、レポートのような内容なのかと思っていました。ですが、読んでみるとストレートに世界史が主で、沈没船は世界史の理解を助ける補助の役割がほとんどでした。
例えばローマ帝国の全盛期は非常に海上貿易が盛んで、そのせいでこの時代は大量の商船が地中海を行き交いその結果として海上での事故も多発し、沈没船の量も非常に多くあちこちで発見。
しかし、ローマ帝国が分裂した後は内戦や小競り合いが多発し、政情が不安定で外国との海上貿易が下火になり、逆にこの時代の沈没船は滅多に発見されない、などなど。
この沈没船の数や積まれた荷から時代を読み解くというアプローチが非常に面白く、世界史を新たな視点で眺められるようになります。
絵画から作者の人間性だけでなく、その奥に潜む絵が描かれた時代の風俗や価値観、空気をも読み取り読む前と後でその絵の見え方を変質させてしまう中野京子さんの『怖い絵』シリーズなどと同じように、その時代の技術や人々の生活の記憶を濃密に焼き付け、パッケージしている沈没船から歴史という物語を浮上させる本書もやはり読む前と後で世界史の捉え方が変わります。
最後に
沈没船と世界史を絡める本書は、読むだけで歴史がドラマチックに感じられるようになり、終始楽しく読めました。
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