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【TVアニメ】オカルトと科学とニコラ・テスラと |『Occultic;Nine(オカルティック・ナイン)』| 感想 レビュー 評価

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PV

評価:85/100
作品情報
放送期間 2016年10月~12月
話数 全12話
アニメ制作会社 A-1 Pictures

アニメの概要

 
この作品は、『シュタインズゲート』など科学アドベンチャーシリーズでお馴染みの会社MAGES.の社長、志倉千代丸原作のライトノベルをTVアニメ化したものです。
 
ニコラ・テスラの世界システム(世界規模の無線送電システム)をモチーフにした陰謀や、幽霊という存在を周波数を用いて独自解釈して見せるなど、科学とオカルトを融合させる試みは科学アドベンチャーシリーズ同様魅力的でした。
 
映像面もほぼ文句の付け所の無いほど高水準で安定しています。
 
しかし、終盤の伏線回収の仕方が慌ただしく、最終話も特に盛り上がりもせず終わってしまうため見終わった後の余韻がすこぶる悪いのが残念でした。
 
総じて、シナリオの欠陥のせいで傑作になり損なった惜しい作品といったところです。
 

あらすじ

 
ニート神を名乗る高校生の我聞 悠太(がもん ゆうた)はアフィリエイト収入を目的としたオカルト系まとめブログ超常科学キリキリバサラを運営する平穏な日々を送っていた。
 
我聞はブログのアクセス数を伸ばそうとオカルト界隈で名の知れた人間に接触を試みるも、奇妙な殺人事件の犯行現場を目撃してしまったことが発端となり、平穏は徐々に綻びを見せ始める。
 
殺人事件から一周間が経過した3月1日、井の頭公園の池から256人の集団自殺と思われる遺体が発見されるという不可解な事件が発生し、世間では益々オカルト熱が高まる。
 
事件の影響でキリキリバサラのアクセス数が上がると大喜びする我聞。だが、我聞は自身がすでに新・世界システムという巨大な陰謀の一端に触れてしまったことを知る由もなく・・・・・・。
 

科学アドベンチャーシリーズの関連作品としては十分過ぎる貫禄

 
本作はアニメ作品として一級の完成度であることはもちろん、やはり最も見ていて心躍る部分は原作者の志倉千代丸さんが関わるゲームである科学アドベンチャーシリーズと共通する抜群のアイデアセンスです。
 
オカルトまとめブログの管理人とその読者たちを中心に話が進むという『電車男』の現代版のような設定や、BLエロ同人マンガが事件のカギを握る預言の書となっており何度もエロ同人誌を読み直しては事件の謎を解いていくという新鮮な描写。
 
『シュタインズゲート』のレトロPCと同じく過去に実際に発売された多機能ラジオ(スカイセンサー)が事件のキーアイテムなど、相変わらずオタクカルチャーと陰謀論の混ぜ方が絶妙で、次から次へと間断なく繰り出されるアイデア群を見ているだけでワクワクしっ放しでした。
 
特に秀逸なのが19世紀の偉大な発明家であるニコラ・テスラを陰謀の中心に据え、世界システムやその計画のために建設された電波塔ウォーデンクリフ・タワーなどを物語と絡める展開で、この部分は本作で最もテンションが上がりました。
 
ニコラ・テスラは名前はよく聞くのに具体的な人物像は知りませんでしたが、本作を見ると世界システムというスケールの大きい計画や、直流・交流を巡るエジソンとの確執、晩年オカルトに傾倒し霊界と交信しようと試みたという史実など、陰謀論と相性が抜群で、テスラが創作物で引っ張りだこになる理由が分かった気がします。
 
ただ、残念なのはやはりどうしても1クールでは尺が足りなさ過ぎて、一つ一つのアイデアの表面をさらっと撫でる程度で次から次に話が流れていくため、どうしてもディテールが弱く感じてしまうことです。
 
自分はアイデアそのものよりもそのアイデアをどのような手法で提示するのかが見たいので、ゲームならシステムで、アニメならアニメーションとして見せて欲しいのに、ただ単に口で説明するだけに留まり、ほんの数秒映像を交えて解説して終わりなど、面白いアイデアの提示の仕方があっさりし過ぎな点はやや不満でした(ただ、後述する6話のコトリバコは最高です)。
 

石浜色の濃い6話の魅力

 
本作と同じA-1ピクチャーズ制作の大傑作だったアニメ版『新世界より』(何回世界という言葉が出てくるんだろう)の石浜さんがコンテ・演出・作画監督を担当している6話は他の回と比べ石浜色が濃厚で、良くも悪くも浮いています。
 
まるで何者かにカメラで監視されているような、ほぼ画面を固定し極端なパースを多用する他の回と比べ、この回だけ石浜さんが好んで使うパンや密着マルチなどの撮影処理が多めで、6話の冒頭を見た瞬間「この回だけ雰囲気が異様だぞ」と一発で気付けるほど感触が別物です。
 
初見時は6話のアバン部分のコトリバコという、存在自体が禍々しい箱を本当に禍々しく見せるという凄まじいまでのホラー演出センスに圧倒され、A-1ピクチャーズのどんな化け物がこの回を担当しているのか確認したくなり本編をすっ飛ばしてエンドクレジットを見たらなんと石浜さんだったので、大いに納得。
 
女と子供をかんざしとでんでん太鼓だけでパパッと表現するところなど演出の手際の良さに痺れました。
 
6話を見ると、『新世界より』の一話や、監督を務めた劇場用アニメである『ガラスの花と壊す世界』の冒頭など、ホラー的な演出がいつも突出して優れていたのを思い出し、このホラー演出のうまさが『新世界より』の魅力を支えていたのだと改めて気付けました(逆に『ガラスの花と壊す世界』はまったく作風が合っていません)。
 
石浜さんはスタイリッシュかつグロテスクなOPアニメーションも手掛け、オカルトのホラー的側面を支えており『新世界より』と同様のセンスの良さに惚れ惚れしました。
 
ただ、映画『ミッドナイトクロス』的な画面をグルグル回す処理は単純に目が回って直視できませんでした(スカイセンサーのつまみを弄ったり、アナログのボタンをON/OFFする描写がミッドナイトクロスのジョン・トラボルタっぽいので引っ掛けている?)。
 

欠陥を持つシナリオを修正できなかった代償

 
映像面・アイデアセンスと非常に優れた要素を多く持つものの、本作最大の欠点は山場らしい山場が最後の最後まで皆無という点です。
 
尺を切り詰めたいのか、全編登場人物が聴き取りに支障をきたすほどの早口で喋り続けるハイテンポで進行し続け、そのまま一切盛り上がらないまま終わってしまうという、非常に残念な後味を残します。
 
自分は純粋にサスペンスが大好きなので、別段終わらせ方のキレイさにこだわりがなく、途中で十分ハラハラさせてくれさえすれば普段はそれほど味気ない終わり方に不満は覚えません。
 
なのに、本作の場合は途中途中でシナリオ的には衝撃展開が用意されているのに、そこに照準を合わせたような盛り上げ方をせず、ひたすら前へ前へと駆け足で進み続けるのみで、カタルシスをラストで伏線を全て回収するタイミングに絞っているのかと思いきや、そこも駆け足で過ぎ去りそのまま終わりを迎えます。
 
結果、最初から最後までテンポが良いだけで特に引っかかるものがなく、見終わった後は「この話は結局なんだったんだろう・・・」という虚しさだけが残ります。
 
この後味は科学アドベンチャーシリーズで言うと『ロボティクスノーツ』と非常に似ており、設定自体は面白いのに、話にスケールを持たせるのに失敗してそれを活かし切れず、キャラも立て損なったままグダグダで終わるという同じ轍を踏んでいます。
 
1クールという尺だけが問題かというとそういうワケでもなく『ロボティクスノーツ』のアニメ版は全22話あったのに、結局最後まで見ても原作ゲームとまったく同じイマイチなだけの話でした。なので、こちらも2クールにしても多少の改善はあるものの根本部分のシナリオの欠陥は解決しないと思います。
 
多分A-1ピクチャーズは最大限努力して出来る限り面白く映像化してくれたと思うので、要所要所の衝撃展開部分をうまく盛り上げられなかったという点以外にあまり文句は言いたくありません。
 

最後に

 
話が何一つまともに盛り上がらないまま終わりを迎えるという大きな欠点が悔やまれる限りです。
 
ですが、次から次に矢継ぎ早に繰り出される魅力溢れるアイデア群は抜群に楽しく、何よりも映像面はA-1ピクチャーズのセンスを全投入したようなほぼ隙のない超絶クオリティで、余韻の残念さに目をつぶれば傑作級と言っても過言ではない完成度の作品です。
 
 

 

 

 
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