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【TVアニメ】荒木飛呂彦を刻め! |『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』| 感想 レビュー 評価

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PV

評価:80/100
作品情報
放送期間
前半:2014年4月~9月
エジプト編:2015年1月~6月(分割4クール)
話数 前編:24話 エジプト編:24話 全48話
アニメ制作会社 david production

アニメの概要

 
この作品は、漫画『ジョジョの奇妙な冒険Part3(3部)スターダストクルセイダース』を原作とするTVアニメです。
 
1部・2部のTVアニメ版同様に、出来る限り原作マンガの作風を守り抜くスタンスで作られており、ジョジョらしさや原作リスペクトの精神が濃く安心して見ることができます。
 
ただ、非常に攻めた作風だった1部・2部のアニメ版に比べるとやや無難になり、しかも分割4クールの全48話で若干話のテンポが遅く間延び気味で不満も覚えました。
 
加えて、良くも悪くも原作をなぞり過ぎる弊害で、そのままでは物足りなさを感じるようなエピソードも一切改善されないなど問題も山積しています。
 
アニメ作品としては1部・2部に比べやや大人しくなったものの、スタンド能力の説明描写が原作より丁寧で、かつスタンドもしょぼさを感じさせないデザインと迫力のあるアクションで完成度は並みのアニメを凌駕します。
 

一部・二部と比べ、奇妙さが後退したものの見やすさは向上した三部

 
1部・2部のアニメ版を初めて見た際、そのリアリティを完全無視した強烈な色使いに魅了されました。
 
同じく狂ったような色使いの前田真宏監督のアニメ版『巌窟王』みたいだなと思ったらなんと色彩設計が『巌窟王』と同じ村田恵里子さんで、どうりで似た印象を抱くわけだと納得。
 
しかし、三部からは色彩設計が村田恵里子さんから変更されています。
 
その結果、他を押し退けてでも一番目立とうとするような自己主張の激しい奇妙な色使いと、原作者である荒木飛呂彦先生の奇妙な作風とが化学反応を起こしていた1部・2部の濃い味わいに比べ、かなりあっさりしました。
 
最初は普通の色使いに若干物足りなさも覚えましたが、色彩設計自体は非常にジョジョの作風に馴染み違和感のない出来栄えで途中からあまり気にならなくなりました。
 

原作を改変しないことのメリット・デメリット

 
元々原作マンガの再現度が高い1部・2部と同様・・・どころか、今作はさらにその傾向が強まっており、その姿勢ゆえところどころ支障を来している箇所も多くあります。
 
メインキャラクターをより掘り下げるような描写が足されたり、スタンドの能力に対する映像的な解説が丁寧になっていたりという多少の変更点はあるものの、基本は全編原作のエピソードをそのままなぞるため、面白いエピソードはそのままアニメでも面白くイマイチなエピソードは何一つ手直しされずイマイチなままという問題が生じています。
 
いくら原作者の荒木飛呂彦先生が漫画家として天才とは言え、週刊少年ジャンプで週一という超過酷なスケジュールで連載し、しかもスタンド能力は三部で登場したばかりで作品内での扱いにもまだ慣れていない時期のため、前半はかなり荒っぽい回が多めです。
 
その荒さまでしつこくアニメで再現するため、たまに嫌がらせに見えました。
 
スタンドの設定にこなれてくる後半はサスペンス性が安定して面白いものの、どうしてもこの原作尊重姿勢の弊害で前半や、セリフ回しが乱暴な回の印象は極めて悪いです。
 
会話が噛み合っていない箇所を修正せずそのまま声をあてるせいでギクシャクしたやり取りの不自然さだけが際立つなど当たり前で、特に個人的に一番見ていてイライラさせられたのは、目の前で起こっている出来事を登場人物が見たまんま口にする場面が多いことです。
 
マンガだとコマが小さく静止画で、音もないので、セリフ説明がないと現状何が起こっているのか把握し辛いため仕方ないと思います。しかし、これをアニメの大画面で動きも音も加わり、視認性が大幅に向上した状態でやられると、見れば一発で分かることに対してただただ説明過剰なだけで辟易させられます。
 
ただ、北久保弘之監督のOVA版(エジプト編)のジョジョのような、原作マンガのホットな部分を削って、クールに仕上げるようなやり方に対して、テレビアニメ版は原作のホットな部分をさらに極端に強調するような作り方をしており、こちらのほうが好ましく感じました。
 
OVA版は亡き今敏監督始め、『人狼 JIN-ROH』の沖浦啓之監督やら『電脳コイル』の磯光雄監督やら、スタッフクレジットを見るとめまいを覚えるほどトップ級のクリエーターがゴロゴロなため、OVAなのに中身は劇場用アニメと見紛うほどの異常な完成度です。
 
しかし、荒木飛呂彦節を作品から抜くような作り方をしているせいでジョジョっぽさはどうしても薄めでした。
 
この荒木飛呂彦節に逆らうような作り方をするよりも、強調し盛り上げるような作りをしているほうがよりしっくりくるため、本作を見ていてジョジョを映像化する際は絶対に荒木飛呂彦節を薄めてはいけないのだと分かります。
 
通常のアニメの作りに寄せるのではなく、荒木飛呂彦先生のタッチを再現するため不自然さを恐れないという本作の姿勢は絶対に正しいと思います。
 

白熱のスタンド戦

 
絵的にはどのスタンドも手抜きはないものの、正直前半は特定の面白い回を除いてマンガだと数分で終える話を一話丸々引き延ばすためテンポがあまり良くありません。そのため、どうしても安定して面白くなるのはエジプト編以降です。
 
原作でも屈指の面白さのダービー(兄)戦や、ラストのディオ戦は別格としても、映像化されたことで魅力が増したスタンド戦も数多くあります。
 
ンドゥール戦は、OVA版でもなかった目が見えないンドゥールが承太郎たちをどのように捉えているのか、音を可視化させて見せるため、非常に分かりやすくなっています。
 
それに、見た目が易しいのと同時にンドゥールに隠密行動中に位置を特定される緊張度がより増すなど、サスペンス性を強化する働きもしており好印象でした。
 
それと、シリーズディレクターの鈴木健一さんがコンテを担当する回は5話のポルナレフ戦始め、どれもアニメ的なけれん味に溢れ素晴らしいものの、特に圧巻なのがペットショップ戦でした。
 
ペットショップのつららによる遠距離攻撃をマクロスのミサイルのようなキレの良いエフェクトと小気味よいSEで表現するためアニメーションとしての快感だけで言うならヘタをするとラストのディオ戦以上でした。
 
ペットショップ戦は数あるスタンド戦のなかでも映像化の恩恵が非常に強く、その予想外の楽しさに何度も何度も繰り返し見てしまいました。
 

最後に

 
ジョジョの世界をこのような大胆な手法で映像化するのかという新鮮な驚きに満ちていた1部・2部に比べるとやや無難となってしまったことや、とにかく全体が弛緩気味でテンポが悪いなど、不満もそこそこあります。
 
ただ、三部の見所であるスタンド戦と切ない余韻を残す長旅という二大要素をしっかり描き切っており、改めて本作を通じて3部の魅力を堪能できました。
 
さらに後半のエジプト編のED曲であるPat Metheny Group(パット・メセニー・グループ)のLast Train Home(ラスト トレイン ホーム)という哀愁を誘うインスト曲が旅をテーマにした三部と相性が抜群で、旅の終わりを常に意識させられる感傷的なムードは原作には無い趣があり、この選曲は文句なしに最高でした。
 
 

 

 

 
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