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【TVアニメ】その幼女、凶暴につき |『幼女戦記』| 感想 レビュー 評価

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PV

評価:95/100
作品情報
放送期間
2017年1月~3月
話数
全12話
アニメ制作会社
NUT(ナット)

アニメの概要

 
この作品は、オンライン小説を元とした書籍のTVアニメ版です。
 
ストーリーは、エリートサラリーマンが異世界で幼女に転生し、サラリーマンとして培った前世の記憶と膨大な魔力量を武器に能力主義が徹底する帝国軍の中で出世を目指すという内容です。
 
とにもかくにも、頭は出世と保身のみの血も涙もない中年のエリートサラリーマンが幼女に転生するという奇抜な設定を成立させる悠木碧さんの演技力が圧巻です。
 
暗めの色彩で丁寧に描かれた世界大戦を目前に控える20世紀初頭ヨーロッパ風の異世界に漂う重い空気の表現や、爽快さがありつつ暴力の匂いも染み込んだ魔導士同士の激しい空中戦、官僚用語のような硬いセリフを軽妙なテンポに乗せる会話劇の面白さなど、アイデアの奇抜さにのみ頼らず、それを支える骨太な美術やアクションの作り込みも見事でした。
 
アニメとしての革新性には乏しいものの、単純な面白さだけでいったら数ある国産アニメの中でもトップクラスです。
 

あらすじ

 
合理主義の塊であるエリートサラリーマンの主人公は、リストラ勧告した社員に恨まれ駅のホームから突き落とされ命を落とす。
 
しかし、死の間際、創造主を自称する存在X(主人公が呼称)により死に際ですら神を信じようとしない無信仰ぶりを咎められる。恵まれた時代では神への信仰が薄まるのは当然という主人公の主張を受けた存在Xにより、神への信仰を芽生えさせるべく戦争が決して絶えることのない異世界へと転生させられてしまう主人公。
 
異世界で目覚めるとターニャという名の幼女の姿になっていた。
 
前世のエリートサラリーマンとしての記憶を有し、しかも魔力の存在する世界で天才的な魔導士の才能に恵まれたターニャは、能力主義が徹底する帝国において9歳の若さにして魔導士として軍の出世コースをひた走る。
 
さっさと出世し前線から離れ後方の安全な勤務先を望むターニャ。だが、神への信仰心を芽生えさせようとする存在Xの策略により希望とは裏腹に常に激戦地へ投入され続ける過酷な日々が続き、いつしか敵・味方双方から悪魔と呼ばれ恐れられる存在となり・・・。
 

キャラクターと硬派な作風が二人三脚で理想的な関係を築く衝撃の面白さ!

 

この作品はパッと見の絵的な印象と、実際見た際の体感の面白さがまったく別物でした。
 
ハッキリ言って本作よりも作画に力が入ったテレビアニメは他に探せばいくらでもあるものの、それらとは一線を画するほど面白さのツボを押さえ切った満足度の高さはケタ違いです。
 
大傑作だったアニメ版の『シドニアの騎士』と同様、映像化の際にやや硬めの作風である原作小説を柔らかくもみほぐし語り口を軽やかに調整。そこに第一次・第二次世界大戦を下敷きにした世界観や設定のずっしりとした重みはそのまま保たれるため、テンポよく見やすいのにも関わらず話に厚みや重みも感じるという理想的な仕上がりでした。
 

 
特に突出しているのが主人公のターニャの麻薬的な魅力。それを支えるのが、見た目は9歳の女の子なのに、中身は中年のエリートサラリーマンという奇妙な設定を完璧に表現し切る声優の悠木碧さんの演技力の高さ。
 
一見出世のためなら誰にでも尻尾を振る保身にしか興味が無い軽い人間に見えながら、その実相手が神であろうが自分以外の誰にも隷属しないという頑固さも併せ持つ面倒なターニャ。
 
中身は中年の男なのに幼女を演じていて、その中身は中年の男なのに幼女を演じているキャラを今度は声優が演じるという複雑さを見事こなし、一面的でない魅力を秘めるターニャのポテンシャルを引き出し切る悠木碧さんの可愛いのに可愛げがない演技のハマりっぷりは見事でした。
 
本作はキャラクターの魅力に依存する、作品の足りない部分をキャラにおんぶにだっこで誤魔化すようなアニメとは似て非なるものです。
 
戦場に9歳の女の子が将校として存在するという無茶苦茶な絵面を一切笑いで茶化さず堅めのトーンで描き切ったアプローチの正しさ。
 
戦争の絶えることのない過酷な世界をどんよりとした暗めの色使いで丁寧に描きつつ、それに合わせるように最大の見所となる空中戦も一見派手に見えつつもスタイリッシュになりすぎず、血なまぐさい暴力の匂いもきっちり残すというバランスの置き方。
 
これら各要素が主役の魅力を引き出すことに一致団結し、それによってカリスマ性を帯びたターニャがただ画面上で不敵な笑みを浮かべるだけで硬派な作風と共鳴し相乗効果を生み出すという、キャラとそれを支える諸要素が互いの価値を高め合う、理想的な関係を実現できています。
 

脚本の長所・短所

 

本作は似たような作品で言うと『ヘヴィーオブジェクト』のような本人は安全な後方勤務を希望しているのに、なまじ優秀なので前線で戦果をあげてしまい本人の意に反して英雄として激戦地ばかりに送られ頭を抱えるというコミカルな話運びとなっています。
 

 
この要素ともやや関連する難点が、軍事作戦全般で出せたはずの緊迫感を出しそびれている点です。
 
例えば、自軍の奇襲上陸作戦を支援するために先行して上陸地点に設置してある敵の固定砲を叩くという作戦は時間内に砲を破壊できなかった場合は作戦失敗となるという厳しい条件があるのに、まったくタイムリミットを意識させる作りになっておらず、気付いたら作戦が完了していたというずさんさ。
 
さらに、大規模な作戦の前に、敵の陣地の上空を一人乗り用のロケットを用いて飛び越え、後方の敵司令部に奇襲をかけ、敵軍の指揮系統を麻痺させるというデタラメな作戦も、内容の無茶さに対して割とスムーズに進行してしまうなど、物足りなさを覚えることが多くありました。
 
この試作ロケットで敵の頭上を飛び越えるという無謀極まりない作戦なんて、このような緊迫した状況を描くのが得意な『シドニアの騎士』なら多分作戦中に味方の半数くらいが死亡して成功するかどうか冷や冷やさせるのに、まったくそのような工夫が施されないので肩透かしを喰らいます。
 
この作戦行動でそれほど危機的状況に陥らない展開が重なると、前線がそれほど危険な場所に映らず、安全な後方勤務を希望するターニャの願い虚しく最前線へ送られるというコメディ部分がイマイチ活きません。
 
ただ、脚本自体は完成度が高く、官僚用語のようなお堅い言葉がリズミカルに飛び交う会話劇は高いハードルを楽々と突破しており心地良さすら感じます。
 
何よりも二話で神のような存在が主人公に語り掛けてくる際の演出が原作小説から映像用に的確に修正されており好印象でした。この時間を止めて周囲の人間に神の言葉を代弁させるというアイデア自体は別段珍しいワケではないものの、ここが原作通り人の姿をした神が登場しべらべら喋るという展開をそのまま採用してしまっていたら映像作品として致命的に安っぽくなり本作の評価を大幅に下げていたので、この変更は大正解だと思います。
 
このように、不満な点もちらほらあるものの、それを掻き消すほど映像化の手腕が的確なため全体としてはさほど気にはなりません。
 

最後に

 

ターニャという作品の核を中心に各要素が互いの価値を高め合うようムダなく機能する様は美しく、全十二話一秒たりとも退屈に感じる瞬間はありませんでした。
 
NUTナットの初アニメ作品とは思えないほどの大傑作!!
 

幼女戦記シリーズ

 

 

 

 

 

 
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