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ローマンという名の男 信念の行方 〈レビュー・感想・評価〉

トレーラー

 

評価:80/100
 
作品情報
公開日(アメリカ) 2017年11月22日(日本では劇場未公開)
上映時間 122分

短評

 
 弱者救済に人生を捧げてきた主人公がその融通の効かない潔癖なまでの姿勢によって周囲に変化をもたらすというメッセージ性が大変素晴らしい。
 
 いち映画として見るとやや魅力に乏しいものの、ある男の信念が次世代に継承される様を質素に表現するという手法が新鮮。
 

あらすじ

 
 公民権運動弱者の救済のため人生の全てを捧げてきた弁護士ローマン・J・イズラエル ESQ.
 
 ある日、自分の師でありパートナーだった弁護士ウィリアムが病気で倒れ、所属していた弁護士事務所が閉鎖。ローマンは、同じ師であるウィリアムに基礎を叩き込まれたのにも関わらず、金儲けのことばかり考える弁護士ジョージの事務所に不服ながら移籍することとなる。
 
 自分の生き方がもはや時代遅れになりつつあることを悟り、理想と現実の間で苦悩するローマン。そんなローマンに弁護士としてのプライドと10万ドルの大金を秤に掛けるような事態が起き・・・・・・。
 

ナイトクローラーよりコンセプトでは勝るが映画としては劣る

 
 監督・脚本がダン・ギルロイ、撮影監督がロバート・エルスウィットという、傑作サスペンスであるナイトクローラーコンビによる映画ということで、見る前はてっきりナイトクローラーのようなスリラー系の作品だと思い込んでいました。
 

 
 しかし、観終わると印象が一変。一応主人公が変人で、そこそこのスリラー要素があり、現代社会に対する強いメッセージが込められているという点は同じなものの、メッセージの打ち出し方がナイトクローラーとは完全に真逆。
 
 ナイトクローラーは主人公の倫理観が欠如している様を見せることでニュースに刺激ばかり求める現代の歪みを浮き上がらせようという捻った試みなのに対し、本作はローマンという愚直なまでに高潔な理想を追い求める不器用な人間の生き様を淡々と描くことで、信念というものの儚さや尊さを際立たせるという、ナイトクローラーでやっていたことをひっくり返すような内容で驚かされました。
 
 同じロサンゼルスを舞台にしているという点は共通なものの、ナイトクローラーが妖しい夜の表情を切り取った眠らない街ロサンゼルスなら、こちらは年がら年中天候の良い昼のロサンゼルスといったところ。
 
 ナイトクローラーのジェイク・ギレンホールが演じるルイス・ブルームは常識や倫理観のブレーキが壊れた怪物として存在感があったのに対し、本作のローマンを演じるデンゼル・ワシントンも全身からガンコな堅物オーラを漂わせ、良くも悪くも周りを振り回す変人として一度見たら忘れられない濃い魅力があります。
 
 ここら辺の変人キャラの描き方はダン・ギルロイ監督の十八番なのか不満はほとんどありません。
 
 ただ、ナイトクローラーに比べると映画としては決定的に物足り無さを感じます。本作のテーマ・アプローチともにほぼ100点と言ってもいいほどセンス抜群なのに対して、とにかく映画全体がデンゼル・ワシントンの演技に気を使い過ぎて遠慮がちで、ナイトクローラーのように映像作品として弾けていません。
 
 主人公のローマンの佇まいと同じく、この映画自体が飾りっ気のない地味なトーンでガンコな主人公を描く姿勢は正しく、マジメ一辺倒で生きてきたローマンが普通なら取るに足らないような慎ましい贅沢をするシーンの味わい深さなど、印象に残る場面も多々あります。しかし、映像作品としては決定的にパンチ不足です。
 
 メイキング映像を見るとデンゼル・ワシントンと一緒に仕事ができるだけで光栄で、デンゼルに演技指導を一切しなかったという話を監督がしており、多分ベテラン大物役者に気を使い過ぎた影響だと思います。
 
 デンゼル・ワシントンが主演の映画はダメとは言わないもののわりと物足りなさを覚える頻度が高く、本作を見ると、その原因はここら辺にあるのかなぁと考えさせられました。
 
 ローマンの弁護士としての魂の死を植物状態のウィリアムに重ねていたり、ブルドッグの置き物が継承されるファイティングスピリットの象徴だったりと、端的にテキパキと意味を映像で語って見せる手腕は巧みなものの、正直それでなにか熱いものが胸に込み上がるかと言われると、メッセージをうまく映像的に処理しているなという程度の感慨しかありませんでした。
 

ジョージやマヤのキャラが弱すぎ!!

 
 この作品が傑作に届かなかった理由の大きな要因の一つがコリン・ファレル演じる上司であるジョージや、カルメン・イジョゴ演じる人権運動家のマヤの描かれ方が雑なこと。
 
 映画の途中まではてっきりハスラー2ロッキー3ブギーナイツのような年を重ね若かりし頃のハングリー精神を失い、人生守りに入ろうとする者があるキッカケで再び老骨に鞭打って立ち上がり、人生に戦いを挑むという話になるのかと思いきや、それはローマンではなく上司のジョージのほうだと分かり唖然。
 
 ほぼ中盤まで銭ゲバの嫌な上司くらいの印象しかなかったジョージが突然ローマンの生き様に胸を打たれ、かつての理想を追い求めていた自分を思い出し心を入れ替えるという展開が不自然にも程があります(映画を観直してようやく序盤からそのような人物であることが示唆されていたことに気付く)。
 
 人権運動の魂を受け継ぐ役のマヤや、弁護士としての初心を思い出すジョージと、ローマンから想いを託される側の二人もローマンと同じくらい重要な役割なのに、個別のエピソードをきちんと描くなどの工夫がなく、掘り下げ不足。その結果、全編ただのデンゼル・ワシントンの独り舞台になってしまっており、テーマがややブレ気味です。
 
 この作品は脚本も良く、メッセージも素晴らしく、撮影監督も天才のロバート・エルスウィットで、主演が大ベテランで実力者のデンゼル・ワシントンと、映画の歴史に残るほどの傑作になる余地がいくらでもあったのに、ここら辺の物足りなさのせいで良作止まりになってしまっており、非常に勿体ないです。
 

最後に

 
 デンゼル・ワシントンの演技によりローマンという不器用でも信念に生きた男の生き様に説得力を持たせられている時点で勝ちは勝ちなものの、もっともっと遥か高みを狙えるポテンシャルを秘めていたのにそれを発揮しきれなかった惜しい作品
 

余談

 
 本作を見て一番連想させられた映画は007 スカイフォールでした。
 
 ブルドッグの置き物が継承される魂の象徴というのはスカイフォールとまったく同じで、イギリスの画家であるターナーの『解体されるために最後の停泊地に曳かれてゆく戦艦テメレール号』という、かつての勇ましさが消え失せ老朽化した戦艦の姿にジェームズ・ボンドの老いを重ねて端的に見せる手法など、類似する箇所が多いです(スカイフォールにおけるターナーの絵の役割が本作ではウィリアムになっている)。
 
 
映画評論家の町山智浩さんの007 スカイフォール解説
 

 

 

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