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硬派な作風+行き当たりばったりな脚本 「ABSENTIA(アブセンシア) シーズン1」 〈レビュー・感想〉

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トレーラー

評価:80/100
作品情報
放送期間(アメリカ) 2017年9月~11月
話数 全10話
アメリカ
ネットワーク AXN

短評

 
 『刑事ジョン・ルーサー』、『ハンニバル』などと同様、主人公の精神が徐々に擦り減り追い詰められていくパラノイアックなクライムスリラー。
 
 セリフではなく映像で語るタイプの非常に演出が硬派で固めな作りのため、見やすさとは無縁。
 
 それに、興味を惹くような刺激的な設定の割に全体的に脚本はお粗末で、ラストもあっけないなど、あまり余韻のいい作品ではない。
 

あらすじ

 
 殺人鬼ハーロウの手で殺害されたと思われ、死亡扱いとなっていたFBI捜査官エミリー・バーンは、6年間の監禁生活の後に無事に身柄を保護される。
 
 エミリーは過酷な監禁生活の影響で監禁中の記憶が曖昧で自身に何が起こったのか思い出すことが出来ずにいた。
 
 6年にも渡る監禁から解放されたエミリーを待ち受けていたのは、すでに新しい家族と幸せな家庭を築く夫、そして母を邪魔者扱いする息子という自分の居場所などどこにもない冷たく変わり果てた現実であった。
 
 自分を6年も監禁し人生を奪ったハーロウと共犯者を捕まえようと躍起になるエミリーだったが、事件を追えば追うほど、徐々にこの事件がエミリーの自作自演であることを示すような証拠ばかりが発見されていき……。
 

全話を同一監督が担当する、良くも悪くもブレない作風

 
 このドラマは一話の冒頭のシーンに一目惚れし最後まで見ようと決めました。
 
 エミリーが水槽に閉じ込められ水かさがせり上がると薄暗い水槽内から一転、幸せに満ちた家族とのひと時が走馬灯のようによぎり、今度はまた水中に沈んでいきそのまま静かにタイトルバックという、水面を用いた上下の動きの繋ぎ方が秀逸で、これはセンスが良いぞと俄然テンションが上がります。
 
 本作は全10話の監督をオデッド・ラスキン一人で担当しているため、良くも悪くも映像は硬派で地味という方向性で一貫しています。
 
 正直そこまで突出して演出力があるとも思わないものの、2話のハーロウがプールから上がる動きをじっくりと見せ異様な迫力を醸すシーンや、3話の戦慄が走るゴーカートのシーンなど、時々不意打ちのようにハッとするような映像を叩き付けられるため、地味ながら最後まで見届けたいと思えました。
 
 ただ、この監督は役者の演技力を活かした生の感情が火花を散らすようなドラマ部分は非常に見応えがあるものの、サスペンスシーンの出来にムラがあり良いところは極端に良く、悪いところは本当に投げやりという欠点があります。
 
 3話のゴーカートのシーンは全編通じて最も好きで、てっきりこんな極上のサスペンスシーンがこの後も続くのだと期待していたら、その後はあまりパッとしなくなりややガッカリでした。
 
 特に8話のある患者から情報を入手するため精神病院に潜入するというくだりは、患者に成りすまして病院内に入ったら勝手に協力者が現れ、全ての手筈を見ず知らずのその人が整えてくれ、なんなく対象と接触とご都合主義の極みみたいな展開で呆れました。
 
 『24』シリーズのような濁流の如き勢いのあるテンポで些細な問題を強引に押し流してしまう作風なら気にならなくても、本作は硬派であらゆる場面をじっくり長々と見せたがるため、細部の詰めが甘いシーンのバカっぽさがやたら目立ちやすいという問題があります。
 
 それに、脚本の出来がイマイチで話にのめり込めず集中力が切れがちという点や、役者の演技力に頼り過ぎで絵的に単調な困り顔の人間だらけの会話シーンが無駄に長いという点が重なり、何度も何度も眠気に襲われました。
 
 映像の質自体はそこそこ高いので、多少眠くても途中で飽きて視聴を止めるということはありません。それでも、画面にメリハリを持たせるとか、得意のえぐい人間ドラマに重点を置いて会話に緊張感を出すなど、もう少し睡魔を追い払う工夫が欲しかったです。
 

足を引っ張りまくりな脚本

 
 長い間監禁された後、しばらくぶりに我が家に戻ると、そこには自分の居場所がなく、孤独を感じるというシチュエーションの作り方は『ホームランド』を彷彿とさせます。
 
 ただ、ホームランドが監視する側とされる側が互いの目を欺こうとするという『デスノート』における夜神月とLのような心理的な駆け引きに近い楽しさがあったのに比べ、こちらはただ延々と苦悩し続けるだけで、設定の面白さのわりに印象は淡白でした。
 
 エミリーが戻ってきたことにより、今まで表面上はうまくいっていた人間関係が崩れ、ぎくしゃくしだすという人間ドラマ部分は非常に出来がいいものの、それ以外がとにかくずさん。
 
 特に酷いのは事件にまつわる新事実が伏線など一切ないままほぼ後出しで放り込まれるという、情報の提示のヘタさです。
 
 実はこの意外な人が事件に関係していましたと言われても「その人のことよく知らないんだけど・・・・・・」と白け、実はこの場所が事件に関係していたと言われても「その場所にまつわる描写がまったくされていないんだけど・・・・・・」と呆れ、衝撃展開がだだ滑りもいいところ。
 
 他にも、本作で一番謎だったのが途中エミリーがある人の家に忍び込み、血まみれの眼のイラストが描かれている気味の悪い日記を発見し、それを本人に問い詰め、返ってくる理由がさっぱりピンとこないこと。劇中のセリフだけだと、日記に眼のイラストを大量に描くという異常行動の説明にまるでなっておらず、余計謎が深まるだけでした。
 
 多分こういうサイコホラー的なシチュエーションを作りたいという奇抜なアイデアだけが先行して、丁寧にディテールを詰めるというプロセスを省略し、全てそれっぽく作るだけで妥協してしまったためだと思われます。
 
 おかしい点はまだまだあり、警察から逃れるためトラックに身を隠していたら運転手にショットガンを突きつけられ危機に陥るのかと思いきや特に何の意味もなかったり、懸賞金目当ての人間に捕まるというくだりもほぼ無意味だったりと、硬派な作風の割にそこら中24レベルの雑な描写で溢れ、イマイチ狙った高級感を出せていません。
 

最後に

 
 興味を惹くような設定の魅力ほどには盛り上がらず、ラストのオチも酷く、ストーリーまわりはイマイチなだけでした。
 
 ただ、絵作りにこだわりが感じられ、役者の演技力もおしなべて高く、何よりも6年ぶりに帰ってきたエミリーの存在により摩擦が生じる人間関係のえげつない描写が非常は見応えがあり、そこは十分楽しめました。