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【TVアニメ】原作を忠実かつ大胆に映像化した奇跡の一作!! |『新世界より』| 感想 レビュー 評価

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PV

評価:100/100
作品情報
放送期間 2012年10月~2013年3月
話数 全25話
アニメ制作会社 A-1 Pictures

アニメの概要

 
この作品は、貴志祐介作品の中でも最高傑作である大ボリュームSF小説『新世界より』のTVアニメ版です。
 
アニメ版は原作に非常に忠実な内容で、これだけ見てもなんら理解に支障がないほど丁寧に映像化されています。
 
原作小説が好きな人間が読んでも大納得な原作遵守な姿勢と、他の平均的なアニメに似せて凡庸に埋没しないよう挑んだ映像周りのこだわりなど、作り手の攻めと守りのバランス感覚が優れておりテレビアニメの歴史に残ってもおかしくない大スケールSF巨編でした。
 
ただ、平均的な映像にならないよう気張りすぎた弊害として見辛い部分も多々あり、決して見やすい作品ではありません。
 

あらすじ

 
世界中で超能力(サイコキネシス)に目覚める人間が誕生してから1000年が経った未来。
 
舞台は、1000年前には茨城県神栖かみす市と呼ばれていた神栖かみす66町。。
 
神栖66町は町全体が八丁標はっちょうじめという注連縄しめなわにより外の世界と隔てられた呪力(超能力)を使う人間たちの町で、悪人が一人も存在せず、犯罪自体が起こらない平和な町だった。
 
しかし、そんな神栖66町で暮らす子供たちの間では奇妙な噂が囁かれていた。それは呪力を使えない子供はネコダマシという怪物にさらわれてしまうという怪談話。
 
渡辺 早季わたなべ さきは、同い年の子供たちの中では呪力に目覚めるのが遅く、ネコダマシを目撃した経験があった。自分が中々呪力に目覚めないことで異常な不安を見せる両親、そして自分より呪力の目覚めが遅かった者たちの記憶がある時忽然と消え去り思い出せなくなるという違和感に悩まされる早季。
 
そして早季は夏季キャンプの際、決して出てはいけない八丁標の外に出てしまったことをキッカケに知ることとなる。
 
この神栖66町の大人たちはなぜ子供を過剰に恐れ、家畜のように管理するのか。そして、人類が超能力に目覚めてから1000年の間に世界がどの様に禍々しく変容してしまったのかを。
 

ツァラトゥストラではなく家路で始まる神を巡る物語

 

原作に忠実なアニメ版ですが、最も衝撃だったのが意外にアニメオリジナルである冒頭シーンでした。
 
タイトルの元であるドヴォルザーク交響曲第9番『新世界より』の第二楽章の編曲である『家路』の穏やかな旋律に乗せて繰り広げられる、物語の幕開けを告げる静かな殺戮の花火。その暴力から一転1000年の月日が経ち、遠き山に日が落ち、ムラサキ色に染まった夕暮れの田園風景の中、今度は夕方のチャイムとして流れる家路を聞いて帰路につこうとするのどかな子供たちの場面へ。
 
この音楽を橋渡しとする大胆な跳躍は小説では絶対に出来ない手法で、まるで映画の『2001年宇宙の旅』の冒頭のような大胆さに呆気にとられました。
 
監督であり一話のコンテも描いた石浜監督は本作と同じくA-1ピクチャーズ制作のアニメ版『グランブルーファンタジー』のシルエット使いが巧みで素晴らしいOPアニメーションを手掛けた人だと分かり、こんな天才的な映像センスがあるなら『グランブルーファンタジー』のOPくらいは朝飯前だよなと納得しました。
 

 
1000年後の未来が現在とどこか似ているようでしかし決定的に異質であるという様をムラサキ色の夕暮れで見せてしまう大胆さ始め、この世界がなんなのか肝心なところがうまく掴めないもどかしさ。家畜として飼育される足下がおぼつかない少年少女の不安の色が滲み出た張り詰めた空気。それら、言語化できない違和感を多種多様な映像表現だけできっちり見せ切ってしまう力量には圧倒されます。
 

『火の鳥』、『デビルマン(漫画版)』に匹敵する壮大なスケールと、『獣の奏者』の隠蔽された暗黒の歴史との対面の興奮を一作に詰め込んだような贅沢な物語

 

いきなり1000年の時が流れる目がくらむような物語のスケールと、現実に超能力者が存在しそれら超能力者一人一人が大量破壊兵器にすら匹敵する脅威を有していたら世界はどのように変質し、それら超能力者をどう管理するのかというシミュレーション的なアプローチ。
 
この物語のスケールとSF的なディテールの追求がケンカせず奇跡的にうまく一処ひとところに納まり、お互いの長所を伸ばし合う理想の関係を築いている様は壮観でした。
 
遺伝子操作・思想教育による洗脳・記憶の改ざんと、あらゆる手段を用いて幾重にも超能力を他者に行使できないようセーフティが設けられてもそれすら万全にはほど遠く、常に超能力者が自分以外の超能力者の暴走を恐れ続ける歪な社会。
 
そんな異常な世界を描きながら、しかし同時にそれはそのまま他者を恐れ遠ざけようとする現代社会にも通じるという高度なSF的な寓話が展開され興味深く見ていると、なんとラストはさらにもう一段飛躍。心をえぐられる事実を突きつけられ、拭い去ることの出来ない痛くて重い余韻を残すというおおよそ物語というものに必要な要素は全て網羅しているのではないかと思うほどの完璧さでした。
 
重厚な物語によるもたらされるずしんとくる余韻はもちろん、本作が凄いのは単純に面白すぎるという点です。
 
自分がこれまで見た2クールアニメの中でも突出した中毒性で、全25話を僅か2日で一気見してしまいました(見始めたのが夕方だったので、もし朝から見始めていたら多分一日で見終わったと思います)。こんな超ハイペースでアニメを見続けたのは多分生まれてはじめてです。
 
食事や睡眠で視聴を中断されるのすら煩わしく、気が狂いそうになるほど続きが見たくて見たくて、もうこの作品を見ること以外は考えられなくなりました。
 
病み付きになる中毒性と、心に深く深く突き刺さり決して抜けることはない、しかしその痛みによって得られる教訓こそがとても貴重なトゲを打ち込んでくれる寓話性を併せ持ち、文句のつけようがありません。
 

原作小説との比較

 

アニメ版を見終えて、そのまま間髪入れず原作小説も一気に読みました。
 
アニメ版は、原作では濃厚な貴志祐介作品らしい緻密な生態系の設定などは省かれているものの、物語のダイナミズムや話の展開自体はほぼ同じなため、むしろアニメ版の凄まじい完成度のほうが印象に残ります。
 
 

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原作小説は36歳になった渡辺 早季わたなべ さきの視点から、過去に起こった惨劇を振り返る回想という体で語られるのに対して、アニメ版はその部分はほぼ削られ基本は子供の頃の早季の視点で時系列に沿って進むため、単純な物語として見るならアニメ版のほうがより感情移入しやすい作りです。
 
もちろんアニメはアニメでただの小説のダイジェストに陥っているなどということはなく、原作ではあっさり済ませていた悪鬼と業魔に関しての説明を適切な登場人物に朗読させる巧みなアイデアが取り入れられているなど、原作を読むことで映像化の手腕を再確認できました。
 
ただ、貴志祐介作品特有のユーモラスな部分がごっそり無くなっているのは少しマジメ過ぎるかなとも思います。
 
押井守監督が劇場アニメ版の『攻殻機動隊』を原作者の士郎正宗的な遊び部分を全て抜いてシリアス一辺倒にしてしまうように、高橋良輔監督が『火の鳥』をアニメ化する際に手塚治虫マンガのギャグ要素をバッサリ切り捨ててしまうように、ユーモラスな作風を得意とする原作者の笑い部分を根こそぎ削いでしまうのはやや寂しくもあります。
 

凡庸を嫌いすぎた反動

 

アニメ版は、全体としては超傑作なものの、細かい部分で問題点も多く手放しで褒められるほど見やすくはありません。
 
まず最も気になるのは昭和のアニメかと思うほど、ほとんど毎話ごと作画監督が変わる度に絵柄ががらっと変貌し、キャラの顔が別人と化すこと。『太陽の牙ダグラム』や『装甲騎兵ボトムズ』を思いだすほど作画監督ごとに絵柄の癖が強すぎて、最初は別のアニメが始まったのかと勘違いしました。
 
一応登場人物たちは記憶を改ざんされているという設定があるため、いちいち顔が変わるということに記憶の混濁という演出的な必然があると言えばあるものの、そんなことどうでもよく単に見辛いです。
 
それに、落ち着いた構図で描いて欲しい場面を奇抜なイメージを先行させ過ぎたせいで何が起こってるのか分からなくなっている箇所があるとか、夜の場面が本当に画面を暗くするせいでほとんど何も見えないとか、細かい不満をあげだすとキリがありません。
 
ただ、絵的な部分はそういう問題が生じることを承知であえてアニメーターや作画監督に好きにやらせているだけなので、作品のコンセプトとして理解できそれほどマイナスには感じませんでした。
 
そもそも、本作は見辛さなどを凌駕するほどただ単純にメチャクチャ面白いので、ここまで面白ければ多少の問題は許容できます。
 
見やすさを徹底するアプローチと、本作の様な絵的に攻め続けるアプローチと、どちらが正しいというワケではなく、選択した方法をどこまで妥協なく突き詰めて完成度を高められたのかという結果だけが大事でその点においては本作の到達度に一切不満はありません。
 

守りに入っている作品がここまで傑作になるはずがありません

最後に

 
見応えがある映像に酔い、いい意味で尾を引く重苦しい余韻に想いを馳せと、この作品に出会えて心の底から良かったと思える力作中の力作でした。
 
大作である原作小説がその魅力を最大限引き出してくれる映像作家に出会えた奇跡を堪能できる大変幸福な一作です。
 
 

 

 

 
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