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【TVアニメ】ロボットアニメ新時代! |『シドニアの騎士(1期)』| 感想 レビュー 評価

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PV

評価:95/100
作品情報
放送期間 2014年4月~6月
話数 全12話
アニメ制作会社 ポリゴン・ピクチュアズ

アニメの概要

 
この作品は、弐瓶勉の漫画『シドニアの騎士』を原作とするTVアニメ版1期です。
 
アニメ版はSF的なディテールを犠牲にしてでも明瞭さを選んでおり原作漫画よりも遙かに取っ付きやすくなっています。
 
加えて、見た目はスタイリッシュな上にジリジリと窮地に追い込まれるサスペンスフルな戦闘も見応え抜群です。
 
しかも、もたつきが微塵もない疾走感のある心地よい進行テンポで進み、退屈な瞬間は微塵もありませんでした。
 
綿密な計算とズバ抜けたセンスが細部まで行き届いた傑作CGロボットアニメです。
 

あらすじ

 
通常兵器がまるで通用しない未知の生命体奇居子ガウナ奇居子ガウナの脅威から逃れるため人類が太陽系を捨て別の星系へと旅立ってから1000年。
 
人類という種を存続するために建造された播種船はしゅせんの一隻である恒星間宇宙船シドニアは、ガウナの危険が及ばない安全な場所を求め航海を続けていた。
 
特殊な事情を抱えた祖父とシドニアの地下にて隠れ住んでいた谷風長道たにかぜ ながては、祖父の死後に食料を盗もうとしたところ米泥棒として捕まり地上へと連れ出される。
 
長道ながてが地上へ出るのとほぼ同時に、100年間接触がなかったガウナが突如出現。長道は自身の出生に疑問を抱きながらも、対ガウナ用人型兵器である衛人もりとの操縦士となり、シドニアを守る戦いに身を投じていく。
 

弐瓶勉漫画を爽快娯楽アニメ化してしまう手腕

 
設定自体は、敵であるガウナが『マクロスF』のバジュラに似ていたり、巨大衆合船しゅがふせんとの戦いは初代マクロスの圧倒的戦力差のゼントラーディ艦隊との決戦を思わせたりと、随所でマクロスシリーズの影響が目に付きます。
 
ただ、ハードSFとユーモアがこれ以上ない配合比率でブレンドされた弐瓶勉作品でないと堪能できないユニークな語り口は絶品で正直マクロスよりも遥かに好きです。
 
原作漫画は感情をあまり表に出さない無表情なキャラが多い上に、中にはずっと仮面を付けているキャラまでおり、人物の表情や仕草に細かい演技を付けるのが困難なCGアニメとは相性が抜群で、CGアニメの弱点があまり気になりませんでした。
 
作品のテンポも非常に心地良く、弐瓶勉作品の特徴であるひねりを効かせたマニアックな設定や、神経質なまでの背景美術。やっていることはベタなのにレイアウトや間の取り方のセンスで笑わせるギャグ。状況が二転三転するスリリング戦闘シーンなど、一切を出し惜しみせずリズミカルに見せられるだけで麻薬的な快感すら覚えるほどです。
 
その他にも、死んだ仲間の葬儀のシーンを毎回のように繰り返すことで戦闘で人が死亡するという辛い現実を突きつけ気を緩ませない工夫を盛り込み、原作漫画では扉絵でもあるシドニア内部の絶景を紹介するシドニア百景はじめハードSFなのに下町風の温かみのある街並みを合間に挟むことでシドニアの住民たちの生活を意識させ何を守るために戦っているのか忘れさせない配慮など、拾うべき描写はしっかり拾っている脚本には無駄がありませんでした。
 
全編に渡り、原作のSF部分の硬めなディテールの角を丸めてマイルドに調整し、分かりやすさと軽快なテンポを重視するという映像化戦略が冴え渡っており無類の面白さです。
 
このため、読む際のハードルがやや高めな弐瓶勉漫画原作なのにも関わらず、アニメ版は驚くほど明瞭で見やすい作品に仕上がっています。
 

研ぎ澄まされた色使い

 
シリーズ構成・脚本の出来の良さもさることながら、やはり本作で最も驚異的なのは映像センスの洗練ぶりです。
 
富野ガンダムのような流れの中でテンポを殺さず会話させ、多すぎず少なすぎずな適切な量の情報を無駄なく伝えていく語りのバランス感覚
 
『新世紀エヴァンゲリオン』のような時にはシリアス、時にはユーモラスな緩急自在な間の取り方
 
『宇宙戦艦ヤマト』のようなひたすら主人公たちを追い詰め続ける逆境に次ぐ逆境というサスペンスフルな展開。
 
マクロスの快感を伴う加速表現や超ハイスピードバトルなど、似たようなジャンル作品の長所を一作に凝縮したような贅沢さで、その密度に圧倒されます。
 
特に、母艦であるシドニアのブリッジで全出撃機体の状態と操縦士の健康状態をモニタリングしているという設定自体はオーソドックスながら、今まで自分が見たことのある似たようなシーンの中でもトップクラスのスタイリッシュさで痺れました。
 
モニターに表示されるUIのデザインがシンプルで美しく飽き辛い上に、緑・黄・赤という分かりやすい信号機カラーで操縦士たちの状態をモニタリングしているため、ただ画面上の人物の表示が変わるだけで不安を誘う効率的でありつつ効果的な見せ方に惚れ惚れしました。
 
モニター同様、エフェクトのカラーデザインも統一されており、推進機やヘイグス粒子砲から漏れ出るヘイグス粒子の色が味方は青・敵であるガウナは赤で、パッと見識別しやすい上に味方が救援に駆け付ける際は青い色が接近してきてホッとするし、敵が急接近してくる際は赤い色が迫ってきて恐怖をもたらすと、色だけである程度状況が把握でき、混乱しません。
 
青が安全・赤が危険と、ありがちでシンプル極まりない描き分けにも関わらず、個ではなく群として描かれるロボット描写の美しさと相まってここは新鮮でした。
 

もはやホラー的ですらある戦況が悪化していく恐怖体験

 
モニター演出や色使いとも関連するのが、戦闘時に味方が徐々に減っていくスリルで、戦闘シーンは体感としてはロボットアニメを見ているというよりはホラーに近いものがあります。
 
戦闘中は、戦況をモニタリングしているシドニアのブリッジ描写が巧みなため、戦場を捉える視点がやや引き気味に。そこに前線で戦う味方機の撃墜は激しく動的に描き、ブリッジではモニター上の色だけで味方の損耗を静的に描かれ、これを交互に見せられると戦況が徐々に悪化していく不安や恐怖が混じり合い、ブリッジのモニター上に表示される操縦士の顔や音、色だけでモニターの先に存在する人間の存在の重み・喪失の絶望を否応なく想像させられます。
 
敵のガウナは装甲にあたる胞衣えなが分厚く、本体を露出させるまでに多数の犠牲を払わなくてはならないものの、露出させれば基本は一撃で撃破が可能という、危機的状況からの一発逆転のシチュエーションが作りやすい設定なのも最大限活かし切り、戦闘は敵を倒す爽快さよりも徹底して味方機が撃墜され戦力が減り続ける恐怖に重点が置かれ、その出来栄えは圧巻でした。
 

ベニスズメの機体番号のフォントも原作より気味が悪く最高でした

最後に

 
CGアニメという特性上仕方なく存在する人間の演技がぎこちないなどの問題はあります。
 
しかし、『シドニアの騎士』という原作漫画を本気で映像化してやるという気迫が伝わってくるため、最終的には好意が勝ります。
 
二期である第九惑星戦役は一期で満たしていた基準をほとんどクリアできず大幅に出来が劣るため、この一期の凄まじいまでの完成度は貴重でした。
 

シドニアの騎士シリーズ

 
 
 
 
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