評価:85/100
放送期間
|
2013年10月~12月
|
話数
|
全12話
|
アニメ制作会社
|
サンジゲン
|
アニメの概要
この作品は、漫画『蒼き鋼のアルペジオ』を原作としたTVアニメです。手描きアニメではなくセルルックのCGアニメとなっています。
作り込んだモデリングを何度も使い回せるCGアニメの利点を生かした風格漂う艦船の迫力と、アニメーターの作画のリズムやテンポをコマ数を落としたCGで再現するキレの良いアクションという、手描きアニメとCGアニメをハイブリッドした作風が新鮮でした。
潜水艦ものとして互いの数手先の動きを読み合う駆け引きのスリルや、打って変わって激しい艦隊戦のアクションともに完成度が高く、映像は見応えがあります。
歴史ある手描きアニメのテクニックと最新の技術が融合したサンジゲンの情熱がこもった傑作でした。
あらすじ
時代は地球温暖化によって海面が上昇した近未来。
突如世界中の海に出現した第二次世界大戦時の軍艦を模した無人の艦船群、通称霧の艦隊により、人類は制海権を奪われ、陸地に押し込められてしまう。
海上を封鎖されたことで各国の政治・経済は崩壊し、世界は衰退の一途を辿るばかりであった。
そんな疲弊し切った現状を打破したいと願う士官候補生の千早 群像(ちはや ぐんぞう)は、拿捕され長らく活動を停止していた霧の潜水艦・イ401の眠りを覚ます。
霧の裏切り者であるイ401のメンタル・モデル(霧の艦が人間の姿を模して作ったインターフェース)イオナの協力で霧に対抗できる力を得た群像は、人類とも霧とも異なる独自の方法で事態の解決を図ろうと、霧の艦隊が支配する大海へと出航する・・・・・・。
サンジゲン凄い!
このアニメに興味を持ったキッカケは、サンジゲンがCGを担当したアニメ『ヘヴィーオブジェクト』でした。そこからサンジゲンの設立者であり代表の松浦裕暁さんの本を読んだ直後に本作を見るという流れで、ヘタをしたらリアルタイムで見るよりも最高のコンディションで臨めました。
本作を見ていて強く感じるのはやはり作り手たちの勉強熱心さと、手描きアニメへの敬意です。
手描きアニメのデフォルメやけれん味の魅力を徹底的に調べ尽くし、それらを全てCGアニメの動きに生かしているため異化作用のようなものが起き、CGアニメを見ているのに手描きアニメっていいなというねじれた感想を抱きます。
ゲームで言うと最先端のCGを使ってドット絵の温かみを再現するような感じです
作中の人間と霧がいがみ合うのではなく、お互いに歩み寄り共存の道を探るというテーマも、そのまま手描きアニメの持ち味とCGの利点の融和を図るサンジゲンの姿勢にそのまま合致します。
初単独TVアニメ作品が『蒼き鋼のアルペジオ』という選択は、あらゆるピースが見事にハマる相性の良さでうまく出来すぎているとすら思えます。
ここら辺の作り手の問題意識と作中のテーマをシンクロさせるのは初期の頃のガイナックスっぽいなと感じました。
リズミカルに艦が踊り、縦横無尽にミサイルが舞う、そんな幸せな時間
本作の最大の魅力は全編に渡り徹底されたキレの良さです。
ややおっとり気味に見えるキャラすらも早口で喋らせる、もたもたと間延びすることを許さないキレの良い会話劇。
もはや画面内の何百カ所が光っているのか分からないような暴力的な量にもかかわらず、きちんと管理が行き届き、場面場面の印象を強化して見せるキレの良いエフェクト。
個々のキャラクターのパーソナルカラーを印象付けるという役割も果たす、シンプルながら飽きないメンタル・モデルのリング状のインターフェース使いのキレと、だらけたものが一つもありません。
中でも、ダンスをするようなメンタル・モデルと艦船のキレの良いシンクロっぷりは見ていてうっとりします。ミサイルハッチがリズミカルに開閉し、ミサイルがテンポよく飛翔していく様はまるでミュージカル映画のような快感があり癖になります。
艦船は静止している際はCGによる細部の作り込みの細かさやレイアウトの効果でどっしりとしていて風格があるため、アクションになり途端に軽快に動いても安っぽく見えません。
静止状態と運動状態のメリハリの利かせ方もガイナックス作品のタッチを連想させられ、本作の特徴である新しいことに挑戦しているのに同時に懐かしさや過去の傑作へのリスペクトも感じさせてくれ、見ている最中は常に幸せでした。
ヤックデカルチャーな不快なハーレム
全体としては優れた要素が圧倒的に上回るものの、気になる箇所もあります。
まず、別段本作に限った話ではないものの、ほとんどハーレムに近いようなラブコメ部分が若干ノイズなことです。
やっていることは初代のTVシリーズ版の『超時空要塞マクロス』におけるミリアと同じで、自分を打ち負かした相手に執着し、最初は憎しみや怒りだった感情が徐々に恋心に変わっていくというラブコメチックな展開なのに、本作の場合は負けた瞬間いきなり主人公にメロメロな状態になるため最初何が起こったのか理解できませんでした。
つい先ほどまで人間を殺す気満々だった霧のメンタル・モデルが主人公に負けた途端に人と霧という種も、陣営の違いも通り越し、味方の霧の艦隊を裏切ってまで惚れた主人公の元に押し掛けるという展開が急すぎてとても飲み込めません。
人とは異なる未知の存在と戦っている最中に、いきなりハーレム展開が挟まれると設定上余計に混乱します。
エピソードに割ける尺の違いはあるものの、30年以上昔の初代マクロスより似たようなラブコメ展開の質が後退しているのはどういうことなんだと虚しくなりました。
さらに次の問題はコレよりも深刻です。
TVシリーズの総編集版でもある劇場版のDC(ディレクターズ・カット)を見ていたら、唐突に本作の構造上の重大な欠陥に気付きました。
それは潜水艦ものとしての戦術の読み合いと、敵である霧のメンタル・モデルたちが自由意志に目覚めていくという内容がほとんど噛み合っていないことです。
本来なら、激しい感情の込められた霧の攻撃を、人間側が死に物狂いで編み出した戦術で受け止め跳ね返すという、感情のキャッチボール構造にならないとおかしいのに、実際はダダ洩れの感情のぶつかり合いという安易な勢い任せな決着の付け方をしてしまっており、戦闘自体は派手なのに胸に響くような深い感動がありません。
これがもしガイナックスなら人間の可能性の全てを戦術に託して語れたはずです
潜水艦ものとしての、互いの行動の数手先を読み合うクールな頭脳戦の興奮と、霧のメンタル・モデルが自由意志を獲得するエモーショナルな展開を完璧に一致させるような作りに出来ていたらもっと作品に磨きがかかっていたのに、ここは非常に勿体ないなと思います。
最後に
多少の欠点はありますが、単純な作品の完成度とはまた別種のアニメ版『爆走兄弟レッツ&ゴー』のような「これを作っている人たちは自分たちの作品の凄さに興奮しているんだろうな」という作り手の高揚感混じりの息遣いが感じられる作品で見ていて幸せでした。
潜水艦ものとしての確かなスリルと、フルCG(と言っても手描きの背景がやたら目立つのでそこまでフルCG感はない)のTVアニメとしても上々と、サンジゲンの実力を見せつけられた傑作でした。
リンク
リンク
リンク
リンク