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【TVアニメ】これといって色もない無難な映像化 |『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』| 感想 レビュー 評価

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OPアニメーション

評価:70/100
作品情報
放送期間 2017年10月~12月
話数 全12話
アニメ制作会社 Lerche(ラルケ)

アニメの概要

 
この作品は、ライトノベル短篇小説『キノの旅』を原作とするTVアニメです。TVアニメ化は二度目で、最初の作品に比べるとキャラクターデザインが原作のイラストに寄せられており、より原作遵守の映像化となっています。
 
原作小説は、SF作家である星新一ショートショートの影響が濃い毒っ気のある作風ですが、今回のアニメ版は原作の魅力をどうすくい取って映像に置き換えるのかという戦略性があまり感じられず手応えがありませんでした。
 
別段アニメとして他の作品に見劣りすることはありませんが、ただ単に無難に映像化しただけで『キノの旅』らしさがなにも響いてこない空虚な作品でした。
 

全てが薄ぼんやりしている国

 
本作の感想を一言でいうと“薄味”もしくは“薄口”です。原作のクセを丁寧に全て取り除いたかのような手応えの無さで、原作小説が多数持つ個性のどれを強調したいのかという戦略性がまるで感じられません。
 
そのため、本当にただなんとなく映像化しただけにしか思えませんでした。
 
旅の道中に不意に危険に遭遇する描写が不足しており、原作にはある見知らぬ人間とやり取りする際の緊張や、それと対となる善人と出会えた時の安堵も希薄です。
 
様々な国を巡る旅情もなければ、ガンマニアである原作者の銃器描写に対するこだわりも別段映像として拾えていません。
 
さらに、原作小説で最も印象深いクセになってしまう毒っ気を含んだ寓話要素も薄まっており褒める部分が見当たりません。
 
特に一番酷いと感じたのは、訪れる国の住人など脇役たちのキャラデザや演技の付け方の適当さです。何のこだわりも感じないモブキャラが映り込むだけで絵が安っぽくなり、画面から何度も目を背けたくなりました。
 
悪人は本当に記号的に悪人で、悪人っぽい顔をして、ニヤニヤと悪人然とした薄ら笑いを浮かべ、悪人的な軽薄な振る舞いをするという、まるで『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』を思い出すほどの人物描写の浅さで見ていて苦痛です。
 
キノや他の主要キャラはどちらかというと受け身なスタンスで、あまり口数の多いタイプではなく、必然的に訪れた国の住人と会話するシーンが長めです。
 
そのため、記号的で絵持ちせず、セリフに深みも重みもない脇役との絡みを長時間見せられ、肝心な寓話自体も物足りなく感じてしまいます。
 
ただ、名前も無いようなちょい役でもキャスティングされている声優さんだけはやたら豪華なためそこだけは救いでした。
 
個々のエピソード自体もなぜ原作からわざわざこれらを選んだのか不明なものが多く、単純な話としてのインパクトも弱めです。
 
それにわざとなのか偶然なのか不明ですが、9話で悪事ばかり働いてきた人間がたまたま良い行いをしたら根は優しい善人のように扱われるのはおかしいという話の流れから、10話の優しい国のエピソードに移るという意地悪にも程がある構成なため、優しい国という話から受ける印象が原作とはほぼ別物になっているのも気になりました。
 
ただ、色々と不満があっても、時系列としては過去のエピソードにあたる10話と11話だけは、他の回とは比較にならないほど本気度が伝わってくる華やかな色使いで見応えがあります。
 
正直、全話この二つの回ほどのクオリティで徹底してくれたらもっと評価が上がっていたと思います。
 

最後に

 
単体のアニメ作品として見れば、小道具のデザインが凝っていたり、ほとんど毎話と言ってもいいほど画面の色味を変化させ単調さを避けようとする地味な工夫が施されていたりと、そこまで悪い印象は抱きません。
 
ですが、『キノの旅』という単純な完成度とは異なるクセの強さを味わいたい作品の映像化としては不満しか残らない凡庸さで記憶にまったく残りません。
 
 

 

 

 

 

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