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【TVアニメ】その教室にはナニかが紛れ込んでいる |『Another(アナザー)』| 感想 レビュー 評価

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PV(このPVはダサイものの、本編はしっかりしています)

評価:80/100
作品情報
放送期間
2012年1月~3月
話数
全12話
アニメ制作会社
P.A.WORKS

アニメの概要

 
この作品は、綾辻行人原作の小説『Another』をTVアニメ化したものです。
 
ホラーアニメとして雰囲気作りに成功しているのと、画面映えするヒロインの突出した魅力で映像作品として優れた完成度でした。
 
スロースターター気味なため序盤がやや退屈という欠点を持ちますが、中盤以降話が一気に転がりだすと面白さが倍増する傑作ホラーアニメです。
 

あらすじ

 
時代は1998年。主人公榊原 恒一(さかきばら こういち)は、東京の中学からすでに他界した母の実家がある夜見山(よみやま)市内の夜見山北中学校3年3組に転入する。
 
夜見山北中学校3年3組はある恐ろしい怪現象に悩まされていた。
 
それは数年に一度クラスの人数が知らぬ間に一人増えてしまうこと。怪現象が発生する年は3年3組の関係者が決まって悲劇に見舞われていた。
 
クラス内で増える一人はかつて3年3組の生徒だったがすでに亡くなっている死者。死者は自分がすでに死んでいるという記憶すら失っており、誰が生者で死者なのか見分けが付かない。
 
一体3年3組の誰が死者なのか? そもそも、自分は生者なのか、それとも死んだことを忘れているだけの死者なのか・・・・・・。
 

この惨劇は怪奇現象か? それともただの偶然の事故か?

 
本作に似たアプローチの作品を挙げると映画の『オーメン』(一作目)や『ローズマリーの赤ちゃん』、『ファイナル・デスティネーション』、などです。
 
人が次から次に凄惨な死を遂げるものの、呪いによって死んでいるようにも見えるし、単に偶然の事故で死んでいるだけとも取れるというタイプのパラノイア的なホラーミステリーです。
 
この死に様がオカルトでも事故でも両方成立するという、双方のラインのギリギリ中間を常に射貫き続けられる演出のバランス感覚は最後の最後まで持続・・・どころか、見終わっても結局個々の事件が一つも呪いか事故なのか区別が付かないため、良い意味でホラー的に後味が悪く、そこも好みでした。
 
疑心暗鬼が疑心暗鬼を生んでしまうという設定以上に、映像のちょっとした間の取り方や画面の構図が巧みで、怪奇現象に見え過ぎず、かつ偶然の事故として片付けるには不自然さも残り最後まで気持ちよくどちらなのか悩み続けられます。
 

ゲーム的なフラグ探しの面白さ

 
夜見山北中学校3年3組に起こる怪現象には、『リング』における呪いのビデオのように一定の法則性があり、この法則をトライ&エラーで絞り込んでいくというアプローチが非常に新鮮でした。
 
例えると、漫画の『ハンター×ハンター』のグリードアイランド編で超レアな“一坪の海岸線”のイベントが意図せず発生し、なぜこのイベントが始まったのか、自分たちの前後の行動からイベント発生フラグを割り出していくような感じです。
 
3年3組の悲劇はもう何十年も続いており、その数十年分の出来事のアーカイブが学校に保存されています。それを参照しながら、ある行為をしたら現象を止める効果があった年と無かった年があり、その行為を成立させるための条件が何なのか過去の生徒の行動や記録からヒントを探っていくというのが本筋です。
 
記録には過去に生徒が起こしたがむしゃらな行為により、まるでセレンディピティのように偶発的に発見された悲劇を回避する法則のヒントがすでに蓄積されています。しかし、それらがどんな条件下でなら確実に効果を発揮するものなのか、確かなことは不明な状態です。
 
なので、イベントを一から発生させるのではなく、すでに過去に偶然観測された、効果は判明しているものの発生条件が曖昧な悲劇回避イベントのフラグをひたすら探して回るという目的が分かりやすい作りで、退屈しません。
 
しかも、本作は映像作品として足腰がしっかりしている分、ややフィクショナル過ぎるルール設定があっても土台のホラー部分はびくともせず、安心して謎解きに没頭できました。
 

非の打ち所がないホラーヒロイン

 
本作のヒロインである見崎みさきめいは、画面へのおさまりがいつ如何なる時でも美しく、映っているだけでひんやりとした空気が漂い映像の温度をホラーとして相応しい適温に下げてくれ、ホラーアニメのヒロインとしてはほぼ完璧でした。
 
このヒロインは設定上、他の登場人物とは異なる雰囲気を生じさせなくてはならないという制約があるため、画面に映るあらゆるシーンの力の入れ様が他のシーンとは比べ物にならず扱いも印象も別格です。
 
ホラーというジャンルの要請によってヒロインの特殊性が強められ、その結果作品そのものもより輝きを増すという、ホラーというジャンルとヒロインがお互いの価値を高め合う理想的な関係を築けています。
 
登場するだけで静かな緊張を走らせる、触れても体温があるのかどうかすら怪しい人形然とした佇まいは本作の空気をぐっと張り詰めさせ、作品の魅力に最も貢献していると思います。
 

スロースターター気味のストーリー

 
本作の魅力でもあり弱点でもあるのが、全てをオチから逆算して作ったのであろう、びっちり伏線で埋められた構成です。
 
このせいで、最後まで観終わってから初めて意味が分かるような描写や人物間のやり取りが序盤から大量に存在し、初見時は描写が不自然でしかなくかなり退屈に感じる瞬間が多めでした。
 
それに、いくらなんでも1クールで全12話しかないのに序盤がのんびりしすぎです。
 
ヒロイン以外のキャラクターは主人公も含めかなり薄めで、キャラの魅力で持たせるということも不可能なため、話が本格的に始動するまで多少の我慢を強いられます。
 

最後に

 
結局、終盤は水島努監督の過去作である『BLOOD-C』と同じような血みどろ展開(しょうもないドンデン返しのほうは無し)にひた走るので若干既視感を覚えました。
 
しかし、トータルとしては非常に良くできたホラーミステリーで、しかも単純なアニメとしての完成度とはまた別に、映像に不思議な官能性があり深く印象に残る作品です。
 
 

 

 

 

 
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