OPアニメーション
評価:80/100
放送期間 | 2015年7月~9月 |
話数 | 全12話 |
アニメ制作会社 | Lerche(ラルケ) |
アニメの概要
この作品は、漫画『がっこうぐらし』を原作とするTVアニメです。
ほのぼのコメディタッチの作風を軸にしつつ、回を重ねるごとに面白さのポイントを微妙にスライドさせていく巧みな構成で最後まで楽しく見ることができました。
集中力を要求される入り組んだ視点の構造や、高度な脚本によるスリルのある会話劇など、ギャップによって生じる刺激も魅力的です。
そして、過激さで気を引きつつも、最後はしっかり見せ掛けの日常に幕を引きキャラクターを成長させるという品の良い余韻に胸を打たれます。
作品を好きになると同時にラルケというアニメ制作会社への好感も高まる両得な作品でした。
多重視点を利用した高度な会話劇
本作最大の魅力はなんといっても学園ものほのぼのコメディな見た目に反し、奇抜としか言いようがないシチュエーションの作り方です。
見ている最中は常に複数の視点を意識しながら画面に映る情報を処理し続けなくてはならず、コメディタッチな作風とは裏腹に常時頭が働き続け心地良い疲労がありました。
この脳に負荷が掛かり続けるシチュエーションを発明しただけで成功だと思います。
それ以外にも、時系列を前後させることによって当初キャラクターに抱いた第一印象を巧みにズラして見せたり、シチュエーションを利用した高度な会話劇がちょいちょい挟まれたりと脚本周りは安定して高水準でした。
特に視点が複数あることを利用した、えげつなさすら感じる冷や汗かきまくりな会話のスリルは、ほのぼのしたトーンとのギャップで切れ味が抜群です。
愛する人を失ったばかりの人の目の前でいきなり恋バナを始め出した時は見ているコチラが凍りつきました。
単純なスリルを覚える会話以外にも、話を聞いていてこの会話内容をどう受け止め、どう処理していいか分からないという、極めて言語化し辛い感情に苛まれる瞬間が何度かあり、もはや優れた映画並みの脚本です。
Lerche(ラルケ)&安藤正臣監督の作風
放送順は逆なものの、本作と同じラルケ&安藤正臣監督の『クズの本懐』を先に視聴していたので、同じアニメ制作会社だなとは思いつつ設定もリアリティラインも何もかも異なるので当初はそこまで関連性を見出すこともありませんでした。
しかし、最後まで見終えると「あれ? この余韻どこかで味わったことある・・・そうだ、『クズの本懐』と同じだ!」と、作品から受ける印象で二つの作品が結びつきました。
序盤は過激な設定や展開で興味を惹きつつ、しかし最後は登場人物たちが二度と昔の平穏で幸せだった状態には戻れないという苦味を含んだ成長を遂げ、新たに人生の一歩を踏み出し爽やかな余韻で終わるというまったく同じ感触を伴う終わり方で意外でした。
ほのぼのコメディタッチで始まり衝撃展開を複数回挟みつつも最後はしっかり青春ものとして痛みを伴った成長を遂げさせ話を締めるという、序盤に作品に抱く印象と見終えた後の印象がまるで異なるという点は、ジャンルは違えど『クズの本懐』という作品への印象の変化と完全に一致しています。
こんな衝撃的なシチュエーションを優先して作ったような作品でもしっかり自らの子供部分と向き合い己の幼さを葬り大人へと成長し、もう後ろは振り向かず前に歩み出すというプロセスをしっかり入れ込むという作り手の誠実さは貴重だと思います。
本作と『クズの本懐』の二作を見たことで、ようやくラルケの作風が漠然と掴め、なぜ自分が『クズの本懐』にあれほど惹かれたのか理由が分かりました。
日常系パートの退屈さ
本作で最大の不満は、基本コンセプトなので仕方がないと言えばそれまでなどうやっても会話にスリルのない、単に日常系タッチなパートのゆるさでした。
このほのぼのとした平穏な時間が後々貴重な想い出になるため絶対に必要な描写な上に、伏線として機能するやり取りも混じっており一概にムダとは言えませんが、とにかく中身が無さ過ぎる上に見せ方のセンスもイマイチなので見ていて苦痛でした。
アニメ版の『四畳半神話大系』のようなあらゆる他愛もない描写がメチャクチャ面白いとかそこまでの水準を要求しませんが、もう少し頭を使う多少の緊張感を孕んだ会話劇の頻度を上げてくれないとダレてしまいます。
ギャップを生じさせるためにあえてと言うにも、もう少し会話の情報密度を上げるか、会話自体はほのぼのしていてもちょっとした画面の構図で会話の意味合いを捻じ曲げ続けるなどの工夫が欲しかったです。
最後に
衝撃的な一話で幕を開けつつ、最後は苦い喪失の果てに成長を遂げるという青春ものとして至って健全な着地を見せ、当初の予想を遥かに超える爽やかな余韻が堪能できました。
単体作品としてスリル満点で飽きさせない面白さはもちろん、ラルケというアニメ制作会社への印象もぐっと向上するほど清々しい姿勢が貫かれた両得な一作です。
余談
OPのクレジットの文字が小刻みに揺れる(うごめいている?)のがなぜか眺めていて気持ちよくクセになるため、ノンクレジット版よりクレジットありのほうが魅力的という不思議なOPでした。
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