トレーラー
評価:100/100
ジャンル | アクションRPG |
発売日(日本国内) | 2015年3月26日 |
開発(デベロッパー) | SCEジャパンスタジオ フロム・ソフトウェア |
開発国 | 日本 |
ゲームの概要
このゲームは、ソウルシリーズの高難易度路線を継承したアクションRPGです。
ホラー小説家H・P・ラヴクラフトのクトゥルフ神話のようなコズミックホラー要素と新要素の追加で、ソウルシリーズとは似て非なる、より手が付けられない最良の作品に仕上がっています。
血に酔うような戦闘の中毒性。ヤーナムという悪夢のような舞台の魔性の魅力。精巧を極め美しく相互作用するシステム。全てが最上。全てが完璧。全てが悪魔的。
この至上の悦楽を記すことのなんとバカバカしいことか。
獣と血と狂気の匂いが充満する古都ヤーナム、あぁ狂おしきかなヤーナム

ゲームを始める前は本作よりも発売日が後の『ダークソウル3』を先にクリアしていたので、もしかしたら発売順にやっていたら気にならなかった些細な点が引っかかるかもと不安でしたが、ただの杞憂に終わりました。
結論から言うと、このゲームの魅力はソウルシリーズを完全凌駕しているので、大傑作だった『ダークソウル3』の印象すら霞んでしまうほどです。
物語の語り口としては、初代『バイオハザード』を思わせる、具体的な説明は最低源にとどめ、プレイヤーがあちこちで見聞きした情報の断片を繋ぎ合わせていくと置かれている状況の背景が立ち現れるという作りで非常に上品です。
ソウルシリーズに比べると世界観がゴシック+コズミックホラーテイストなので非常に視覚的に分かりやすく、しかも普通のゲームだとあちこちに散らばり回収が手間な、話の理解に必要な情報が記された書類がほぼアイテム説明欄に統合されている作りも相まって物語が自然と体に染み込んできます。
序盤から度々見舞われる説明の付かない不可思議な現象。ちらほら散見される通常の敵と比べると明らかに別種の雰囲気を纏 った異物。最初は少数だったそれら異形のモノが徐々に数を増していくことで生じる拭い去れない不安。
それら違和感に擬態していた狂気が厳かにベールを剥ぎ取られる瞬間、人智の及ばぬ光景と対面させられ、脳髄が甘く痺れ、恍惚とし、この作品の深部に囚われてしまいました。
フロムの得意とするゲームプレイを停滞させないままプレイヤーの想像力を最大限活用するストーリーの語り口が極限まで磨き抜かれており、空に妖しく浮かぶ月や、死に際の様相を克明に留めた死体など、物言わぬはずの背景が事態を雄弁に物語る様はゲームにおけるストーリーテリングの一つの完成形を目の当たりにするようでした。
この狂気の世界に足を踏み入れ、精神を蝕まれるのがなんと甘美なことか。
獣狩りの夜 血と月光を浴びた狩人は人と獣の境界を越える
本作のゲームとしての構造はほぼソウルシリーズを踏襲しています。
チェックポイントである篝火が本作では単に灯りとなり、経験値&お金であるソウルは血の遺志という名称に変えられているだけで、ソウルシリーズをやっていればすんなりシステムに馴染めます。
ソウルシリーズと異なるのは右手に変形する仕掛け武器・左手に盾ではなく銃を持つという、本作の特異さを象徴するような攻守のバランスを欠いた両手に凶器を携える、より戦闘的なスタイルになった点です。
これにより盾によるガードが排され、ほぼディフェンス面は高速な回避行動と銃を使って相手の隙をつくパリィに集約されています。
他に異なるところは、リゲインというダメージを喰らった直後に敵に反撃すると失ったライフを一定量回復できるという非常に攻撃的なシステムが採用されている点や、回復アイテムが篝火で無限に補給できるエスト瓶では無く、輸血液という消費アイテム制になりシビアさが増した点、などです。
正直、最初に触れた際はソウルシリーズのヒット&アウェイを中心に小綺麗に立ち回る整然としたスタイルに対し、強引に避けたり攻めたりと、少しばかり雑で乱暴になったなという印象でした。
ただ、ヤーナムという環境に一度順応してしまうと、血を摂取するのが回復という本作の設定を踏まえ、血に飢えた狩人が返り血を浴びて傷ついた己を癒すリゲインや、獣と化し理性を失い狂ったように突進してくる敵を左手の銃で迎撃するパリィ、エスト瓶に比べると高速で使用でき素早い獣との戦闘のテンポを殺さない輸血袋など、実はヤーナムという特殊な舞台に即した仕様変更でもあることが分かり、むしろ乱暴さをも好ましく感じるようにました。
狂気というテーマを扱うなら、本当にゲーム上に狂気を顕現 させ、狩人が獣狩りに酔うという設定にするなら中毒性を増してプレイヤーを戦闘の快感に酔わせる。フロムはこれらコンセプトとゲーム体験を完全一致させる途方もなく達成困難な課題をさも当然のようにこなしてしまっており、改めて底知れぬゲームセンスに戦慄が走りました。
血に酔い、薄汚い獣どもの臓物をえぐるのがなんと官能的なことか。
興が削がれる侵入者
不満としては微々たるものの、本作で一番気になったのが、終盤のステージに配置されている、他のプレイヤーを侵入させようとする敵の存在です(オフラインモードだと出現しません)。
自分は例外はあるものの、ゲームで他のプレイヤーと勝ち負けを競い合う行為が基本は好きではないので、対人戦を強要させられるのはストレスであり不愉快でしかありません(カードゲームなど、最初から対戦用としてのみ存在するようなものは除きます)。
こちら側が望んでいないのに他のプレイヤーに侵入されPvPをさせられるという点は、PS3の『デモンズソウル』の頃から一貫して嫌悪感を抱いていましたが、本作も同様です。
てっきり他のプレイヤーを招くアイテムがあるので、それを使わない限り侵入されることはないのだろうと油断していたら、終盤のステージで他のプレイヤーが突然侵入してきて何も分からないまま瞬殺されました。
狩る側から狩られる側への立場の逆転は、これ以上狩りに酔うなという作品からの警告なのか・・・・・・。
元凶の敵を一度倒してしまえばその周回では復活しない(二周目にはまた復活してしまう)ため、脇目も振らずに一目散で片付けてしまえば侵入は回避できるものの、出来ればオンラインモードでも望まない対人戦を強要させられるようなことはして欲しくありませんでした。
最後に
クリアまで約20時間ほど。DLCのボスを全て撃破するまで約7時間ほど(3体ほどラスボス級の強さのものがおり、ほぼこの3体だけで時間を喰いました)。
ただただ面白さを追求し尽くした結果、人間の美的感覚の極限を見せつけられるような、作り手の狂気のセンスが人ならざるものの領域にまで及んでしまっている奇跡の作品でした。
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