えんみゅ~ -えんためみゅーじあむ-

書評を中心にしたエンタメ作品総合レビューブログ

えんみゅ~

理想的な映像化に成功した、極上のハイファンタジーアニメ 「メイドインアビス」 〈感想・レビュー〉 

f:id:chitose0723:20201107190331j:plain

PV

評価:90/100
作品情報
放送期間 2017年7月~9月
話数 全13話
アニメ制作会社 キネマシトラス

短評

 
 ストーリーは少年漫画のような親しみやすさがありながら、その実どこまでも底の見えない奥深さも備え隙がまったくない。
 
 映像作品としても、贅の限りを尽くした見惚れるほどの美術と、一切の妥協のない作画で文句なし。
 
 物語も映像も隅々まで丹念に作られた超弩級の大傑作ハイファンタジー。
 

あらすじ

 
 約1900年前、南海べオルスカの孤島で発見された直径が1kmもある巨大な大穴アビス。アビスの中には常識が通じない危険生物や、人智を遥かに超えた古代の遺物が存在し、ロマンに惹かれた世界中の探検家がアビスへと殺到する。
 
 いつしかアビスに潜る探検家たちは探窟たんくつと呼ばれ、アビスの周りに出来た探窟家たちの拠点は巨大化しオースという街となった。
 
 そんなオースで一人前の探窟家を目指す探窟家見習いの少女リコと、アビスの中を探窟中に出会った体が機械で出来た記憶喪失の少年レグの二人は、リコの母であり伝説の探窟家“殲滅のライザ”の手がかりを探すためアビスへと潜ることとなる。
 
 アビスは上昇負荷、通称“アビスの呪い”と呼ばれる深度の深い場所に潜ると上昇時に体に深刻な影響が出るという謎の現象が起こるため、人間はある深度よりも下に潜るともう二度と地上に戻る(上昇する)ことは不可能となる過酷な場所であった。
 
 そんなアビスの呪いの影響を受けない機械の体を持つレグを頼りに、リコは母との再会を果たすべく、人の身で降りたら二度と地上への帰還が叶わないアビスの底を目指し過酷な冒険の旅へ出る。
 

メイドインアビスに潜む少年漫画性

f:id:chitose0723:20201107190602j:plain

 

ハンター×ハンターとの類似性比較
 
メイド イン アビス
ハンター×ハンター
憧れの職業
探窟家
ハンター
未開の地
アビス
暗黒大陸
主人公
リコ(母親が伝説の探窟家)
ゴン(父親が伝説のハンター)
旅立つ理由
幼い頃にリコを残してアビス
の底へ潜った母を探しに
行方知れずの父を探すためハ
ンターを目指す
プロの腕前
白笛クラスの探窟家は奈落の
遺物で武装しており凄まじく強い
一流のハンターは全員念能力の達人
作者
天才
天才
 
 このように本作は非常に設定や物語の動機付けが良い意味で漫画の『ハンター×ハンター』に似ており、少年マンガ的な親しみやすさがあります。
 
 一見固有名詞が多めで、ビジュアルも凝りに凝りまくり絵の情報量が膨大で読み解くのが大変なハイファンタジーっぽくても、話の骨格はシンプルで一度作風に慣れてさえしまえば心地良く感じます。
 
※少女が空から降ってくるのではなく少年がアビスの底からやってくるのは『天空の城のラピュタ』の設定をひっくり返した構造にも見えますね
 
 数年前に原作漫画を読んだ際は癖のある絵柄と絵の情報量に気圧され、漫画版の『風の谷のナウシカ』のように絵から物語を読み解く作品なのだと勘違いしイマイチ乗り切れませんでした。
 
 しかし、アニメ版を見て「これ、世界観や絵が凝りまくっているだけでストーリーは少年漫画風なんだな」と気付いたら、一気に作品の楽しみ方が分かり原作漫画も俄然面白く読めるようになりました。
 
 一度作風に馴染むと冒険もののストーリーに少年漫画では破格とも言えるとてつもない豪華な美術や設定の魅力が加味された作品であることに気付け、否が応にも作品の虜になります。
 
 『ハンター×ハンター』と同じで、表面上は少年漫画的な気軽さを備えつつ、中は底の見えない深淵の如き深みがあるという二面性を持つ構造は、見た目の可愛さとは裏腹に堂々とした傑作の風格で、心底魅了されました。
 

原作とアニメ版がお互いの価値を高め合う、理想の映像化

f:id:chitose0723:20201107191109j:plain

 
 通常は絵に強いこだわりのある漫画を映像化した場合、高確率で原作の個々のパーツの釣り合いが崩れ何かしらの不均衡をまねきそうなものなのに、本作は崩れるどころかさらにBGMや環境音を足し、アニメーション(動き)を足し、それらをほぼ完璧に調和して見せるという驚異的なバランス感覚で作られており、画面内で浮いて見える要素が見当たりません。
 
 微塵の隙もない背景密度や、一度見ただけでは聞き取れないほど細かい、遠くの遠くから聞こえる風の音や、鳥の鳴き声、虫の羽音など、パッと見の画面の情報量と細部の細かい音が折り重なり、初回時よりも二回目、二回目よりも三回目と、見る度に作品に対する評価が向上していきます。
 
 単純な情報の物量や演出の迫力で圧倒するのではなく、繰り返しの視聴で徐々に作品の空気が体に染み込んでいくため、初見時は正直やや刺激不足に感じました。
 
 ただ、ずっと基調色である温かみのある柔らかい緑色に包まれていると、スゥっとアビスに体が馴染むように、刺激を求め過ぎないスタンスに心地よさを覚え出します。
 
 アビスという舞台の神秘性を損ねないよう、画面からノイズとなる要因を追放し、見ている最中一度たりともアビスの存在に疑念を抱かせないこだわりぶりは、ハイファンタジー世界を映像で見せ切ってやるという作り手の熱意を感じさせてくれます。
 

ただそこには度し難い選択と結果のみが存在する

f:id:chitose0723:20201107190828j:plain

 
 本作はストーリーテリングが突出して高度で、作中何度も発せられる度し難い(救いがたい・どうしようもない)という言葉に象徴される、登場人物が取る行動の合否を作品側が判定してくれず、見る側が行動の意味を考えなければならないというやや突き放すような作りで、作者の頭の良さが透けて見えます。
 
 特に最終話で取る行動は「本当にこの選択肢で正しかったのか?」と悩み苦しみ、見終わった後もずっと気持ちが晴れませんでした(と、言うか、最終話の後半はずっと泣き続け、見終わった後も数十分涙が止まりませんでした)。
 
 しばしば、見ているこちら側の常識と照らし合わせると異常とも思える行動や思考をする登場人物たち。それは、自分の命を削り漫画やアニメを作り続けるという終わりの見えない過酷な人生を選択したクリエーターの姿とも重なり、探窟家たちが二度と地上に戻れなくなるのを覚悟しアビスの底を目指すように、どこまでも深く潜っていかないと気が済まない、創作の魔性に魅入られた者たちのモノ作り賛歌の寓話にも見えてきます。
 
 自分がやたら探検や冒険を描く話に興味を惹かれるのは、そこに作り手のあえてリスクを取り、答えなどない危険な道に挑みたい、そして自分と同じ過酷な道に挑む者を全力で祝福し鼓舞したいという純粋な想いを垣間見るからなのかなと考えさせられました。
 

最後に

 
 物語的にも映像的にも、近年稀に見る超・超・弩級の大傑作!!