評価:75/100
ジャンル | RPG |
発売日(日本国内) | 2006年6月22日 |
開発(デベロッパー) | トライエース |
開発国 | 日本 |
ゲームの概要
このゲームは、1999年に発売された北欧神話をモチーフにした初代PS用ゲーム『ヴァルキリープロファイル』の続編です。1作目の過去から始まりますが途中で1作目のストーリーを追い越してしまうため、前日譚でありながら続編という変わった構造となっています。
一つ一つの行動に時間経過が設定されたピリオド制など、一作目の先鋭的な部分はあらかた削られ無難なRPGとなりました。そのためプレイしやすくはなったものの前作独自の魅力はほぼ消え失せています。
ただ『ヴァルキリープロファイル』の続編としてはイマイチでも、横スクロールながら独自の美意識が貫かれた美術と、前作譲りのバトルやダンジョン探索の楽しさは最低限残っておりイチRPGとしては普通に面白いというやや困った作品です。
ヴァルキリープロファイルの志は継承されず
前作はラグナロクを目前に控えた終末世界という設定を美術・音楽・システムが渾然一体となり描き切るというトライエース作品の中でも群を抜くどころか初代PSゲームの中でも間違いなくベスト10に入る奇跡的な大傑作でした。
それに比べると、今作は前作の威光が消え失せ、凡庸なRPGとなってしまい落胆させられます。
表現の遥か高みを目指しその気骨がゲーム全体から滲み出ていた前作に対し、今作はそもそも最初から偉大な前作越えを諦めてしまっているのか気迫がまったく感じられません。
前作は、北欧神話をベースにしつつそれに囚われるだけでなく、SFテイストを忍ばせ、デカダンな趣向も凝らした世界を背景美術と音楽、精巧なドット絵アニメーションで表現し切ろうという強固な意志のもと調和が取れていました。
しかし、今作は美術や音楽など、各要素自体は良くできているのにそれぞれが孤立してしまっておりうまく調和が取れていません。
神話そのもののように壮麗な神界に対し、漫画の『ベルセルク』の様な死の気配が濃厚でもはや終わりゆくだけの荒廃した下界 はじめ、ラグナロクが間近に迫る終末世界という方向性が分かりやすかった前作に比べ、今作はわりと平穏な過去の時代を選んでしまった結果ありがちなダークファンタジーのような作風となり魅力が激減しています。
前作は神話モチーフらしく叙事詩的な一個人のドラマを超越したスケールがずっしりと背後に佇 み凄みを効かせていたのに対し、今作は主人公の成長譚の延長でしかなくいくら北欧神話の用語が出てきてもまったく威厳を感じません。
神話であることを前提としそれを優先して作られていた前作に比べ、キャラクターものとして作った今作はキャラクターに神話が負けてしまい北欧神話がただのなんとなくの世界観設定に没してしまった感があります。
神話よりもキャラクターのほうを前面に押し出すのは下品です。
トライエースの悪癖
『スターオーシャン』シリーズ(特に3や4)や『インフィニットアンディスカバリー』など他作品でも顕著なトライエースの悪癖中の悪癖である中身が空っぽのくせにダラダラ長いムービーも辟易させられるだけでした。
せめてラスボス手前にある、空間的に奥行きのある構造を利用して画面奥で展開される物語を観賞させるというような気の利いた演出をもっと全編に徹底していれば文句ありませんでした。緊張感のないムービーをダラダラ垂れ流すのではなく、このような工夫こそを中心に作られていたら本作に対する印象は大幅に向上していたと思います。
街の景観も前作が狂ったようなパースペクティブで異様な空間を作りだし奇想な作風をより強化していたのに対して、今作も一応移動に伴って背景を動かして見せるなど凝ってはいるものの別段それが雰囲気作りに貢献しているかというと技術だけが自己主張して浮いて見えるだけでした。
やはり各要素が孤立しているだけで前作のような妖美なハーモニーを奏でてはくれません。
前作とのシステム比較

前作とほぼ同じ部分は、
- 街もダンジョンも横スクロール移動
- ダンジョンがややメトロイドヴァニア風な構造
- 敵シンボルと接触すると戦闘に突入するシンボルエンカウント
- 〇、△、□、×のボタンをタイミングよく入力しコンボを繋げるバトル
など
前作からもっとも大きく変更された箇所は、ピリオド制というラグナロクまでの制限時間が無くなりオーソドックスなRPGスタイルとなったことです。そのため前作では街やダンジョンに出入りするだけで時間が経過したのに対し、今作では制限が無く自由に出入りが可能となりました。
それに伴いチャプター間にプレイヤーの働きによって神界から貰えるMP(マテリアライズポイント)という有限なリソースをやりくりしてアイテムや装備を確保しなければならないという前作の特徴的だった要素も廃止されました。
今作からは敵を倒すと無限に手に入るお金で物を売買できるようになっています
バトルは単純なターン制から『テイルズオブ』シリーズや、同社の『スターオーシャン』のようにエンカウントするとバトルフィールド内を移動できるという要素が追加されています。ただ、フィールド内を敵味方がリアルタイムで同時に動くのではなく、コチラが動くと敵も動くという『風来のシレン』の様なアクションを求められないタイプです。
それに、成長要素であるスキルはレベルアップ時に獲得できるポイントを振り分けるというオーソドックスな前作と異なり、装備やアクセサリーに設定されているルーンの色や形を組み合わせて入手するかなり難解な仕様になりました。
その他、主人公がヴァルキリーからほぼ普通の人間(人間の肉体に人の魂とヴァルキリーであるシルメリアの魂が同居している)となったため、細かい部分を除きヴァルキリーに付随する要素(空を飛べる・死んだ人間の魂をエインフェリアにし鍛えて神界に転送する・オーディンにアーティファクトを献上する、など)は全て無くなり、全体的に単に普通のRPGっぽくなっています。
前作のようなタイムリミットがありお金も有限で考えながら使わないとヘタをすると途中で詰んでしまうという尖った部分は全てなくなったため、プレイしやすくなった反面独自の魅力はほぼ消え失せました。
ストレスが大幅に軽減されたダンジョン
今作から封印石というダンジョン内に設置することで相手の能力を下げたり、所持することで自軍の能力をプラスしたりする要素が新たに追加されました。
これは、やや粗削りで改良の余地はあるものの個人的にはかなり好みでした。
例えば炎属性の攻撃を多用する敵が多いダンジョンで炎属性の威力を低下させる封印石をダンジョンに設置すると敵の炎属性攻撃を弱体化できたり、回復アイテムの回復量が上がる封印石を所持することでボスの強力な攻撃を強化された回復アイテム効果で耐え抜いたりと、どの封印石を持ち運ぼうか、どの封印石を設置して敵を弱体化したらいいかなど考える楽しみが生まれました。
その他ダンジョン周りで前作から改善された部分は多々あります。
ダンジョン内でマップを開く際のロード時間が無くなり快適となったこと。そしてマップで未踏破エリアがパッと見で見分けられるようになるなど便利になりました。
他にも、アイテムを拾うのにいちいちしゃがまなくてよくなったり、特に意味もなく素通りするだけのエリアによる水増しでうんざりするほど複雑で広くなりがちだったダンジョンがスッキリした構造となり迷いづらくなったりと、ダンジョン部分はユーザーフレンドリー志向でストレスが大幅に減りました(ただ、移動速度が遅くなったため、新たなもどかしさも生じています)。
前作からダンジョンに入るとピリオドが経過してしまう不便さが無くなり自由に出入りできるのと、かつ程よい刺激として機能する難解すぎないパズルや封印石も上々で、下手をしたらダンジョン探索は前作より楽しいかもしれません。これで移動速度が前作と同程度だったなら文句はありませんでした。
アクション性を取り入れた結果、シンプルさを台無しにしたバトルシステム
バトル周りは前作から大幅に複雑化しました。プレイ中ずっと「なぜ前作から進化もしていない、ただ複雑になっただけのシステムを延々苦労して覚えなければならないんだろう……」と悶々とし続けるほどです。
敵は常に単体なので前衛・後衛の概念はなくなりました。そのため、強力な魔法を使ってくる後衛の敵を射程の長い弓や魔法で先に片付けなければならない、とか、憑依系の敵は先に倒すと他の敵に憑依され手強くなってしまうため後回しにしなければならない、とか、ダメージを受けると自爆する敵は決め技などで一気に倒し切らないといけない、など倒し方に工夫を求められることもなくやや物足りません(その代わりに攻撃箇所によって部位破壊出来るという要素が追加されました)。
新しく追加されたパーティを青チーム・赤チームに分割させて行動させられるというシステムを際立たせるためか、やたら敵が長射程の範囲攻撃ばかり多用してくるため鬱陶しく、しかもフィールド移動時に味方キャラが敵やオブジェクトにやたら引っかかり、味方が勝手に敵の攻撃射程に入ってしまいダメージを喰らうなどイライラが多くとても手放しで褒められたものではありません。
全体的に『ヴァルキリープロファイル』におけるバトルの核である〇、△、□、×のボタンをタイミングよく押し攻撃を連携させるという爽快感のある要素とはほぼ関係ない部分ばかりに力を注いでおり焦点が絞れていません。
ただ、不満な点は多々あるものの、一概にダメというほど酷くもありません。
今作はバトルフィールド内を移動できるようになったことで前作のやや単調なターン制バトルに比べ新しい刺激が生まれています。
攻撃回数も武器依存だった前作とは異なり、AP(アクションポイント)制となり、パーティ全体で共有するAPが残っている限り武器に設定された既定攻撃回数を超えて攻撃も可能(二回目以降の攻撃は消費APが二倍)で、AP残量が残っている限り大量の攻撃を敵に浴びせられるという快感は前作よりも上です。
今作も前作と同じく高難易度で『ベイグラントストーリー』などと同様、序盤にスキルや封印石など基本システムをきっちり理解せずなんとなくプレイしているだけだと中盤以降に難易度が跳ね上がるタイプのゲームバランスです。その分システムを理解すればするほど楽しさも増していくので並のRPGに比べたら中毒性は高めでした。
前作に比べバトル周りが進歩したとはまったく思いませんが、今作をやった後に一作目をやり直すと確かにアクション性のないただのターン制バトルだと単調は単調に感じます。
前作の時点でバトルの完成度は非常に高かったのでここまでムダに弄らなくても、シンプルさや戦略性を損なわずマンネリになりやすいターン制バトルにちょっとした刺激を入れるくらいの小規模の改良にとどめておいてくれたほうが個人的にはありがたかったです。
最後に
クリアまで約35時間ほど。
キャラクターの魅力に頼りすぎ北欧神話の良さが感じられないのと、品の無い大量のムービーによる汚染が深刻で奇跡の一作だった前作とは比ぶべくもありません。
どう見てもシリーズの核心を突き損ねた残念な続編ですが、トライエースのRPGだけにクリアするまで飽きさせない出来には仕上がっておりやや評価の置き所に困る作品でした。
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