トレーラー
評価:90/100
放送期間(アメリカ) | 2011年4月~6月 |
話数 | 全10話 |
国 | アメリカ |
ネットワーク | HBO |
短評
優雅で上品なイギリスファンタジーである『指輪物語』とは違い、アーシュラ・K・ル=グウィンの『ゲド戦記』などと同様のいかにも神話的な香りを排した人間臭いハードでシリアス路線を好むアメリカ型ハイファンタジー。
情報量は多いものの話の推進力は強めなため、世界観設定や登場人物の名前、相関図さえ理解してしまえば、むしろ普通のドラマよりずっと見やすく、一度はまると抜け出せなくなるほどの中毒性を持つ。
あらすじ
舞台はウェスタロス大陸に存在する、かつてはそれぞれが独立していた国同士が統一され、まとめて七王国と呼ばれる様になった国。
現在の七王国の支配者であるバラシオン家のロバート・バラシオン王の身に起こる悲劇をきっかけに、バラシオン家、北部の統治者であるスターク家、西部の統治者であるラニスター家、七王国を支配し鉄の玉座の主だったものの反乱により没落したターガリエン家らの間に不穏な動きが巻き起こる。
そして、鉄の玉座を求める者たちによる王位争奪戦を尻目に、北部に存在する巨大な壁の向こう側から人ならざる者の脅威が南下を開始し出す。
鉄の映像強度
本作の最大の魅力はその圧巻の映像強度です。
画面のしょぼさを絶対悪とし、それらを排除し尽くすことで、スケール感のある壮大な群像劇と、それを支える厚みがあり聴き応え抜群の会話劇を際立たせており、何度繰り返し同じシーンを見ても飽きがこない映像の耐久力は凄まじいものがあります。
この繰り返しの視聴に難なく耐え抜ける映像はこれまで見たアメリカドラマの中でもトップクラスで、あまりの金をかけたセットやロケ撮影の豪華さに、もうこれ以下のドラマの水準に満足できなくなるのではと、恐ろしさすら覚えるほどです。
登場人物のキャラの立て方も、大役だけでなく端役 の一人一人に至るまで見事で、会話劇の邪魔をしない自己主張が控え目で物静かな撮影と編集が相まって極めて高水準にまとまっています。
ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』や『ホビット』のような、やたら無駄に動きまくる落ち着きとは無縁で手癖の悪いスペクタクル頼みのカメラワークとは異なり、役者の演技力への信頼、会話劇の完成度の高さへの自信を感じさせます。
第一章をラストまで見終えた後、もう一度頭から見直すと序盤のエダード・スタークが真実を話すナイツウォッチの首を刎ねるシーンの意味合いが180度変わって見えたり、実は序盤から後々意味合いが変化する予兆的なシーンがそこここに素っ気なく置かれていることに気付かされたりと、その巧みな構成に初見時とはまた違った感動を覚えました。
意味合いの変化する重層的なシーンの連なりによって構成される含蓄のあるドラマと、繰り返しの視聴に難なく耐え抜く映像作品としての耐久性の高さが抜群の相性を発揮し、見れば見るほど作品の深みにはまっていく魔性の魅力を備えています。
スタークの首、獲ったどー!?
あえて秘匿することでより神秘性を増す幻想
本作は、通常のハイファンタジーに比べると、神秘的な要素を抑制する作りになっており、これがうまい具合に後々にカタルシスとして回収されるという構成で唸らされました。
神秘など別段マジメに信じていない人々を散々見せ、見る者に「ハイファンタジーだけど、この世界には人が扱える魔法のようなものは大っぴらには存在しない設定なのかな?」と一旦思わせてから、それを覆して見せるので、起こる出来事に現実味が宿り「あの序盤から繰り返されていたおとぎ話のような話は真実だったんだ!」と、映像的に呆然とさせられます。
この、神秘的な要素はいくらでもあるのに、それが真に異様なものとして目に映るよう、むしろそれとは無縁の日常描写や食事シーン、性描写などを丁寧に描くことで、手品の様に注意を逸らし、後に異常な自体が起こると本当にありえない現象を目撃しているという興奮を覚えさせるテクニックは見事でした。
ハイファンタジーというジャンルそのものをややミスリード的に用いる映像のマジックに心底騙され、ラストは開いた口が塞がらなくなるほどの衝撃を受けました。
最後に
作品全体がハイファンタジーという心地よい夢から醒めてしまわぬよう、注意深く安眠を妨げる要素を取り除き、深い眠りを保つことに成功した大傑作!