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【洋画】監督デビュー作にしてすでにベテランの貫禄 |『ナイトクローラー』| レビュー 感想 評価

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トレーラー

評価:90/100
作品情報
公開日(日本) 2015年8月22日
上映時間 118分

映画の概要

 
この作品は、アメリカのロサンゼルスを舞台に、倫理観の壊れたパパラッチの男がTV局に売り込むため過激な映像を求め夜な夜な街を彷徨うというサスペンス映画です。
 
撮影・演技・脚本・舞台と、映画を構成する全てが高水準で、これがダン・ギルロイの監督デビュー作とは到底思えないほど堂々とした映画でした。
 
スリラーとして完成度が高い上に、刺激的なニュースを求めて暴走するメディアへ警鐘を鳴らすというテーマ性も盛り込まれ、全方位的に隙がない大傑作です。
 

もしヤコペッティが現代に蘇りパパラッチという職業に出会ったら

 
まずこの映画の冒頭で虜にされるのは、ロサンゼルスという元々が映画的プロポーション抜群のモデルをライトアップでより妖しく飾り付けられた夜景でした。このカラフルな光によって化粧され、映画的扇情せんじょうを掻き立てるほどの色気を放つロサンゼルスの街並みは見る者を魅了してやみません。
 
この息を呑むほどの街並みは、刺激という悪魔に魅入られ事件現場を視聴者好みに演出し飾り立てることに憑りつかれていく主人公に対し、見ているコチラ側に「だってこんなにライトアップされた景観は刺激的だろ? 刺激こそが重要なんだよ」とまるで共犯関係を迫ってくるかのような錯覚すら覚えます。
 
本作のダン・ギルロイ監督は脚本家上がりなのにも関わらず、セリフにあまり頼らず、映像ベースの非常にテキパキした語り口で演出のセンスを感じさせます。
 
撮影の隙のなさや編集のテンポの良さも相まって、映画はほぼダレることはないハイテンポなペースを維持し続け、サスペンスとしては超一級の完成度でした。
 
ただ、最初からサスペンスを目指したというよりも、表現したいことを突き詰めていった結果作品が極端にサスペンス的緊張感を持ってしまっただけの様にも感じられ、あまりジャンルありきで括るのも作品に対して失礼な気もします。
 
そして、ヘタをしたら本作の完成度にダン・ギルロイ監督以上に貢献しているであろうバケモノ級の撮影監督は誰だろうと調べたら、なんと自分の生涯ベスト級作品である『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の撮影監督でもあったロバート・エルスウィットだと分かり大いに納得でした。
 
ロサンゼルスという事件の予感をかおらせるサスペンスにはうってつけの舞台に恵まれ、これほど腕の立つ撮影監督に恵まれ、人と怪物の境界に住まう主人公を演じるジェイク・ギレンホールという冷静な狂気を体現する素晴らしい役者に恵まれと、こんなに幸運に恵まれ続けな映画が傑作でないはずもなく、しれっと映画史に残ってもおかしくない一作に仕上がっています。
 
映画はしばしば倫理観が欠如した主人公が天職や僥倖ぎょうこうと出会う瞬間を祝福するので困ります。
 
『ロード・オブ・ウォー』のニコラス・ケイジが武器商人という職と出会ったように、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のレオナルド・ディカプリオが投資詐欺に出会ったように、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のダニエル・デイ=ルイスが石油を発掘してしまったように、本作のジェイク・ギレンホールは道端の交通事故現場で人の不幸を収入と刺激へと換えるパパラッチという天職に出会ってしまいます。
 
映画の中の不幸が、映画の外の人間にとっての喜びとイコールとなる瞬間、自分がこの怪物の誕生の加担者となったような気分になり罪の意識が芽生えるものの、それすらも甘美で困りものです。
 

最後に

 
見る映画はほとんど監督かジャンルで選ぶことが多いものの、これからは監督よりも撮影監督で選んだほうが好みの映像に出会える確率が高いのではないかと考えを改められるほどの傑作でした。
 

ダン・ギルロイ監督作品

映画タイトル
ローマンという名の男 信念の行方
ベルベット・バズソー 血塗られたギャラリー
 

 

 
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