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マシュー・マコノヒーという名の怪物 「トゥルー・ディテクティブ シーズン1」 〈レビュー・感想〉

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トレーラー

評価:100/100
作品情報
放送期間 2014年1月~3月
話数 全8話
アメリカ
ネットワーク HBO

短評

 
 元刑事の二人が受ける聴取シーンと、聴取で語られる過去に起こった実際の猟奇殺人事件の顛末が交互に展開され、聴取と実際の事件の内容が噛み合わず、緊張感が生じるという語り口が秀逸。
 
 作風としては非常に演出が固く、サスペンスではあるもののクリフハンガーが強くて見やすい作りではなく、重厚な映像美や演技、硬派なドラマを楽しむ作品。
 
 名優であるマシュー・マコノヒーとウディ・ハレルソン、二人の共演はこのドラマを特別な一作に感じさせてくれるほど完璧なまでに作風に馴染んでおり、二人の演技を見ているだけで幸せ。
 

あらすじ

 
 時代は2012年元刑事であるラスティン(ラスト)・コールマーティン・ハートの二人はルイジアナ州警察に呼び出され聴取を受けていた。
 
 警察側は当時の資料が紛失したため、二人が解決したとされる1995年に起こった猟奇殺人事件の話を聞かせて欲しいと依頼してくる。
 
 二人は警察側に別の思惑があることを見抜きながらも、刑事だった過去を振り返りながら感慨深げに事件の話を語る。
 
 しかし、徐々に二人が警察に対して語る証言と実際に起こった猟奇殺人事件の真相が乖離していき……。
 

マシュー・マコノヒーとウディ・ハレルソンという天才の共演

 
 本作は初っ端のOPからその異様さに圧倒されます。カントリーソングに乗せ、人間のシルエットに浮かび上がるルイジアナ州の景色や、その反対に今度は物に浮かぶ人間など奇怪な映像が次から次に映し出され、初見はもちろん意味は分からなくとも得体のしれない不思議な世界の洗礼を受けているかのような気分になり「このドラマは普通じゃないぞ!」と身構えさせられました。
 
 そして、第一話の冒頭でマシュー・マコノヒーが登場した瞬間、もうこの作品の虜になりました。
 
 善人なのか悪人なのか、イカれているのかまともなのか、捉えどころがない、目の前にいるのに存在がたゆたってハッキリと認識できない様な不穏さを背負った異物が画面を支配している……もうこれだけでこの作品は傑作だろうと確信できました。
 
 このマシュー・マコノヒーの演技や存在感に嘘っぽさが無く真に迫り過ぎているのと、この作品自体が安っぽさを完全排除することに徹し、1ショットたりとも現実に引き戻されるようなしょぼいアングル選択やカメラワークを挟むなどという隙を見せないため、ドキュメンタリックという名のアリバイ的なリアリティを出すことそのものが目的化したような似非えせリアリティとは次元が異なる完成度に達しています。
 
 演出という魔法を最大限駆使したら結果的に嘘臭さが微塵もない映像に仕上がっただけという、安易なリアリティの出し方とは距離を取った高級感のある作品に仕上がっており見応え抜群でした。
 
 本作を見る直前にポール・グリーングラス監督の『ジェイソン・ボーン』を見ていたのが幸運でした。
 
 映像を現実の光景に近づけることが目的化しているドキュメンタリー肌の監督の志向するリアリティと、本作の安っぽさを排除していったら結果的に嘘臭くなくなっただけという仕上がりを見比べられ、本作の化け物さ加減がよく分かりました。
 
 本物に似せただけの偽物を作ることに尽力するよりも、本物とは違う方向性の偽物を極めんとするほうが最終的に到達点が高くなるというお手本のような作品です。
 

映像そのものが不眠症を患っている様な気怠いムード

 
 主役であり、このドラマの鍵でもあるラストという刑事は、過去のある出来事により不眠と薬物中毒の後遺症に悩まされており、常に虚空を見つめ、心を過去に置き忘れてきたのに惰性だけで生き続けている精神の抜け殻めいた印象で、この人物の危うさを完璧に演じきるマシュー・マコノヒーの演技力には度肝を抜かれました。
 
 そして、この作品自体もまるでマシュー・マコノヒーの演技テンションそのものを体現しているかのように気怠くダウナーな雰囲気に包まれ、その均衡の取れた作風には惚れ惚れさせられます。
 
 ラストと同様に時間に取り残され、過去を生き続けるかのような田舎の風景を丁寧に繋ぎ、ラストの妥協を許さない物事に対する神経質さや厳格さを体現したかのような一切のだらしなさを許容しない作り手の絵作りへのこだわりぶりなど、それら全てがラスト・コールの有り様と重なります。
 
 このため、ラストは作品そのものであり作品はラストそのものであるという印象を問答無用で突きつけられ、この人物から目が離せませんでした。
 
 登場人物から受け取る印象と、作品全体から受ける印象を神がかった演出のバランス感覚で一致させるという作り手の途方もない力量に戦慄すると共に、そのとんでもないアプローチの正否の責任を否応なく担わされるという重圧に屈しないマシュー・マコノヒーの才能にも脱帽です。
 
 普通ならクライムサスペンス的に猟奇殺人事件の進展や二人の証言から生じる矛盾そのものを話の推進力の中心にしても良さそうなものの、映画の『アウトロー』における主人公ジャック・リーチャーのように、行動動機そのものが最後まで謎として扱われ、本作も事件そのものはオマケです。
 
 興味の中心となるのはなぜラストはこの猟奇殺人事件にこだわり、入れ込んでしまうのかという、ラストという謎めいた人物の動機のほうに軸足が置かれているのも非常に賢い判断だと思います。
 
 本作におけるマシュー・マコノヒーの存在感は猟奇殺人事件の真相など遥かに凌駕するほどミステリアスで魅力的なため、事件ではなく人物に対する興味を中心に据えるという大胆なアプローチも許容させる力があります。
 

不満あれこれ

 
 好みの問題でもあるものの、自分はカメラの動きを意識させられる固定撮影ではなく移動撮影のある長回しが死ぬほど嫌いなので、4話の目先の緊張感を安易に盛り上げるためだけの長回しシーンは苦手でした。
 
 一応ラストが緊張状態に置かれているため撮り方も緊張感を煽るように同期させ長回しにするというやり方は理に適っていると言えなくもないものの、こんな重厚な絵作りが出来る監督が小手先のテクニックに走らなくてもいいのにと、もどかしかったです。
 

最後に

 
 これほどまでに実写作品に心底惚れこんだのは最近ではポール・トーマス・アンダーソン監督の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』やリドリー・スコット監督の『悪の法則』以来で、間違いなく自分にとって生涯ベスト級作品の一本。
 
 存在すること自体が宇宙誕生と同程度の奇跡である超傑作。
 

トゥルー・ディテクティブシリーズ