トレーラー
評価:100/100
放送期間 | 2014年1月~3月 |
話数 | 全8話 |
国 | アメリカ |
ネットワーク | HBO |
ドラマの概要
この作品は、2012年と1995年という二つの時代を交互させながら、過去に起きた猟奇殺人事件の真相に迫っていくというサスペンスドラマです。
現在(2012年)で行われる元刑事二人への聴取シーンと、二人の元刑事が回想する猟奇殺人事件(1995年)の顛末が微妙に噛み合わず緊張感が生じるという脚本の出来は他のサスペンスドラマと比較しても飛び抜けて秀逸でした。
作風としては非常に演出が固くとても見やすい作りではありません。
その分、監督であるキャリー・ジョージ・フクナガのセンスが発揮されたドラマとは思えない重厚な映像と、名優マシュー・マコノヒーとウディ・ハレルソン二人の共演はこのドラマを特別な一作にするほど優れており、色褪せない傑作に仕上がっています。
あらすじ
時代は2012年。元刑事であるラスティン(ラスト)・コールとマーティン・ハートの二人はルイジアナ州警察に呼び出され聴取を受けていた。
警察側は当時の資料が紛失したため、二人が解決したとされる1995年に起こった猟奇殺人事件の話を聞かせて欲しいと依頼してくる。
二人は警察側に別の思惑があることを見抜きながらも、刑事だった過去を振り返りながら感慨深げに事件の話を語る。
しかし、徐々に二人が警察に対して語る証言と実際に起こった猟奇殺人事件の真相が乖離していき・・・。
マシュー・マコノヒーとウディ・ハレルソンという天才の共演
本作は初っ端のOPからその異様さに圧倒されました。
カントリーソングに乗せ、人間のシルエットに浮かび上がるルイジアナ州の景色や、その反対に今度は物に浮かぶ人間など奇怪な映像が次から次に映し出され、初見はもちろん映像の意味は読み解けなくとも得体のしれない不思議な世界の洗礼を受けているかのような気分となり「このドラマは普通じゃないぞ!?」と身構えさせられます。
そして第一話の冒頭でマシュー・マコノヒーが登場した瞬間、もうこの作品の虜になりました。
善人なのか悪人なのか、イカれているのかまともなのか、捉えどころがない、目の前にいるのに存在がたゆたってハッキリと認識できない様な不穏さを背負った異物が画面を支配していると、これだけでこの作品は傑作だろうと確信できました。
このマシュー・マコノヒーの演技や存在感に嘘っぽさが無く真に迫り過ぎているのと、この作品自体が安っぽさを完全排除することに徹しているため、ドキュメンタリックという名のアリバイ的なリアリティを出すことそのものが目的化したような似非 リアリティとは次元が異なる完成度に達しています。
本作を見る直前にポール・グリーングラス監督の『ジェイソン・ボーン』を見ていたのがよりこの作品を特別に感じさせる要因でした。
この二作を比較すると、映像を現実の光景に近づけることが目的化しているドキュメンタリー肌の監督の志向するリアリティと、本作の安っぽさを排除していったら結果的に嘘臭くなくなっただけという純映画肌の監督の仕事を見比べられ、本作の化け物さ加減がよく分かります。
この『トゥルーディテクティブ』は、本物に似せただけの偽物を作ることに尽力するよりも、本物とは違う方向性の偽物を極めんとするほうが最終的に到達点が高くなるというお手本のような作品でした。
映像そのものが不眠症を患っている様な気怠いムード
本作で最も魅了されたのが主演のマシュー・マコノヒーの完璧と言って差し支えないほど役に入り込んだ迫真の演技です。
主役でありこのドラマの鍵でもあるラストという刑事は、過去のある出来事により不眠と薬物中毒の後遺症に悩まされており、心を過去に置き忘れてきたのに惰性だけで生き続けている精神の抜け殻のような人物で、この危うさを完璧に演じきるマシュー・マコノヒーには度肝を抜かれました。
そしてこの作品自体もまるでマシュー・マコノヒーの演技テンションそのものを体現しているかのように気怠くダウナーな雰囲気に包まれ、その均衡の取れた作風には惚れ惚れさせられます。
ラストと同様に時間に取り残され、過去を生き続けるかのような田舎の風景を丁寧に繋ぎ、ラストの妥協を許さない物事に対する神経質さや厳格さを体現したかのような一切のだらしなさを許容しない作り手の画作りへのこだわりなど、それら全てがラスト・コールの有り様と重なります。
このため、ラストは作品そのものであり作品はラストそのものであるという印象を問答無用で突きつけられ、この人物から目が離せませんでした。
登場人物から受け取る印象と、作品全体から受ける印象を神がかった演出のバランス感覚で一致させるという作り手の途方もない力量に戦慄すると共に、そのとんでもないアプローチの正否の責任を否応なく担わされるという重圧に屈しないマシュー・マコノヒーの才能にも脱帽します。
普通ならクライムサスペンス的に猟奇殺人事件の進展や二人の証言から生じる矛盾そのものを話の推進力の中心にしても良さそうなものの、映画『アウトロー』における主人公ジャック・リーチャーのように、行動動機そのものが最後まで謎として扱われ、本作も事件そのものはオマケです。
興味の中心となるのはなぜラストはこの猟奇殺人事件にこだわり、入れ込んでしまうのかという、ラストという謎めいた人物の動機のほうに軸足が置かれているのも非常に賢い判断だと思います。
本作におけるマシュー・マコノヒーの存在感は猟奇殺人事件の真相など遥かに凌駕するほどミステリアスなため、事件ではなく人物に対する興味を中心に据えるという大胆なアプローチも許容させる魔力があります。
最後に
好みの問題ではあるものの、カメラの動きを意識させられる長回しが大嫌いなので、4話の長回しシーンだけ苦手ということ以外は完璧と言っていいほどの完成度でした。
これほどまでに映像へのこだわりや役者の演技に惚れ込んだのは久しぶりで、間違いなく自分にとって生涯ベスト級のドラマです。
トゥルー・ディテクティブシリーズ
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