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【PS】スクウェアRPGの頂点 |『ベイグラントストーリー』| レビュー 感想 評価

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プレイ動画

評価:95/100

作品情報
ジャンル RPG
発売日(日本国内) 2000年2月10日
開発(デベロッパー) スクウェア
(現 スクウェア・エニックス)
開発国 日本

ゲームの概要

 
この作品は、『タクティクスオウガ』や『FFタクティクス』といった傑作シミュレーションRPGを手掛けた松野泰己さんがディレクターを務める高難易度RPGです。
 
物語の舞台となる魔都レアモンデには官能的な妖しさが漂い、ディレクターの松野泰己さんのセンスに脱帽でした。
 
非常に高難易度ながら、敵の弱点を突く快感を追求するという堅実なゲーム性をとことん突き詰めるコンセプトの徹底が心地よく、苦労の分だけ見返りがあるストレスデザインが秀逸です。
 
しかし、ゲーム馴れしていない人への配慮は皆無なため、完全に中級・上級者向けです。
 
 
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あらすじ

 
かつてバレンディア国に存在した城塞都市レアモンデ。大地震によって崩壊し、現在では古代の予言者の名を冠したカルト教団メレンカンプの根城とされる廃都市である。
 
カルト教団メレンカンプと裏で繋がっていると噂されるバルドルバ公爵。その公爵邸に奇妙にもメレンカンプの教団員が押し入り、公爵の子息を誘拐するという不可解な事件が発生する。
 
事件の真相解明とメレンカンプのカリスマ的リーダーシドニーの確保もしくは抹殺のためレアモンデへと派遣されるVKP(バレンディア治安維持騎士団 )のリスクブレイカー(重犯罪者処理班)アシュレイ。
 
アシュレイは魔都レアモンデで己の隠された記憶を思い出す。
 

舞台となる魔都レアモンデの魔性

 
ゲームの舞台となる魔都レアモンデは、初代『バイオハザード』のようにマップが開始場所からラストステージまで間断なく繋がっている作りとなっています。
 
最初は鍵が掛かっている扉をスルーして先に進み、鍵を入手したらかなり手前に戻るという構造で、個人的に一本道で二度と戻らないエリアがあるようなゲームより、このような同じ場所を何度も何度も訪問するタイプのほうが愛着が湧き非常に好みです。
 
マップの構造が魅力的というだけでなく、音周りの作り込みも丁寧で、魔都に合った暗めで妖しいBGMや耳に残る癖のあるSEなど、音楽の力が縁の下の力持ちとなり雰囲気作りの一助として機能しています。
 
特に、地下に潜るような場所に若干のホラー要素を持たせるような気味の悪いSEやBGMで不安な気分を掻き立てた後、陽光が差す市街に出ると、今度は川のせせらぎなどの環境音だけとなりほっと気分を落ち着かせるといった緊張と緩和をスイッチする音の使い分けが非常に巧みでした。
 
ムービー部分で登場人物たちが会話している場所が後々訪れる場所の予告となっている演出も追う側追われる側双方が同じ場所を時間差で通過しているという地続き感を自然と演出できており抜かりがありません。
 
数あるこだわりの中でも強烈なのはほぼ全エリアに固有の名前が付けられていることでした。まるでかつてのレアモンデの記憶が都市に焼き付き残留しているような工夫もレアモンデという狂った魔都を引き立てるアクセントとして機能しており魔都演出には一片の隙もありません。
 

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究極のストレスデザイン

 

このゲームは高難易度RPGらしく、あらゆる行動にストレスを付随させることを徹底しています。
 
テレポートで指定した魔法陣に飛ぶ際に少なくないMPを消費し、敵を攻撃する際もリスクゲージ(命中率低下、敵からのダメージ量上昇というマイナスな効果)が増加。攻撃すれば武器の耐久率が減り、HPを回復するには主に回復魔法でMPを消費し、MPを回復するにも自動回復のため短くない時間を消費。
 
このように行為全てに溜めとなるストレスを盛り込みそれを達成することに快感をそっと忍ばせる工夫が施されており、一つ一つの行動に常に手応えを感じられます。
 
本作にタダで一方的に得をさせて貰える箇所は少なく、何をするにしてもプレイヤーに大なり小なりの代償が付きまとい、その結果ゲームから一方的にサービスで報酬を与えられているというおもてなしとは無縁の自らの工夫によって結果を勝ち取ったのだという確かな充実感を得られます。
 
全行為に対価を要求することでプレイヤーにゲームと対等であると認識させ、ゲームに奉仕をしてもらうという不健全な関係を正し、ゲームと真に対等な関係を能動的に築かせるという、凄まじいまでに困難な偉業を達成しており、このような水準に達しているゲームには数えるほどしか出会ったことがありません。
 
結果、プレイそのものが純粋感動でありゲーム内の全行為が喜びとなる怪物じみた満足度の作品に仕上がっています。
 

敵の弱点を突くという、ただそれだけの面白さを追求し尽くしたシステム

 

バトルはターン制に少々のリアルタイム性を加えたような準アクションゲームで、シンプルながら奥深さがあります。
 
操作それ自体に特に複雑さはないですが、そのシステムを用いて行う弱点探しが快感です。
 

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同じスクウェア作品であるパラサイト・イヴ系統のロックオンシステム
このゲームは考えながらプレイしないと防御力が高い敵にダメージが与えられないという事態が頻発します。しかし、それは敵が硬くて戦闘が長引いて難儀するという煩わしさとは別です。
 
敵にダメージを与えるにも敵の弱点をアナライシスというサーチ系魔法で調べたり、アナライシスが使えなくとも魔法をターゲッティングして予想ダメージ量から弱点属性を割り出したり、武器交換で打撃・切断・貫通のどの種類の攻撃方法が有効なのか試行させたりと苦労を要求し、プレイヤーにタダで報酬(大ダメージ)が与えられることはほぼ皆無となります。
 
プレイヤーに要求されるアクション的なことと言えば、せいぜい敵との間合いの調節や、バトルアビリティを使うことくらい。
 
バトルの面白さの本質はセッティングにあり、いかに敵にあった武器に持ち替え、アビリティをセットし、種族や属性値に配慮した補助魔法や攻撃魔法を選択するかただそれだけです。それだけなのに考えて選択するという行為に喜びが生じ、大ダメージを与えられる度に興奮が全身を駆け抜けます。
 
武器や防具には種族(ヒューマンやビースト、ドラゴンなど)に応じた種族値や、属性(火や水、土や風など)に応じた属性値というものがあり、装備ごとにステータスは固定ではなく流動的です。
 
攻撃した敵の種族・属性に応じてパラメータが増減するため、特定の種族に特化した武器などを用意しておかないと最悪ダメージをまったく与えられなくなることもあります。
 
この種族値や属性値、武器の攻撃タイプの複雑さが初見のプレイ時には一番のネックで、どのパラメータがダメージに影響を与えるのかが分かり辛いため、序盤は効率的に敵の弱点をつくということが困難です。
 
逆に言うと、効率的な攻撃方法さえ分かればこのゲームの面白さは増すため、序盤であまりバトルアビリティには頼らず、種族値の調整と武器交換で敵を倒す癖をつけておかないと、難易度が跳ね上がる中盤以降が地獄になります。
 
それにこのゲームの厄介な点は敵のHPがあまり序盤から変化せず防御力だけが増加する仕様です。そのため通常のゲームと異なり与えられるダメージ量が増えず、中盤以降は小ダメージでやりくりしていく形となり爽快感や成長感が薄めです。
 
そのせいでRPGにおいて重要となるキャラが強くなっているという実感が得にくく、モチベーションが上がり辛いのが難点です。
 

煩わしい待ち時間

 

まず、一番分かりやすい不満は魔法やブレイクアーツ(必殺技)の演出がかなり長いことです。
 
いちいち魔法を使う度に戦闘を中断され数秒待たされる羽目になるため、ただ通り抜けたいだけのエリアで敵の魔法発動待ち状態に頻繁に遭遇するとさすがに煩わしいことこの上ありません。
 
後、魔法やアイテムの使用、バトルアビリティの変更など、頻繁に行われる動作にはショートカットキーが設定されていて大変便利なものの、唯一マップをボタン一つで開くことが出来ないのが不満でした。
 

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このゲームはダンジョンの構造がやや複雑で迷いやすいため、頻繁にマップを開かなくてはならず、それがいちいちメニュー画面から選択させられるのが面倒でした。
 
それに『バイオハザード』でいうところのアイテムボックスのような使わない道具を保管するコンテナを使用する度にセーブを強要されるため、武器を合成する際など装備の出し入れが非常に不便なこともストレスになります。しかもセーブ速度が非常に遅いためイライラが倍増する始末です。
 
武器の合成もパターンが分かり辛く総当たり的になりがちで、コチラがやりたいのは新しい武器を作ると言うよりは、種族値や属性値の新武器への移行なため、いまいちプレイヤーの要望に添った自由度の高い合成システムになっていない点が不満でした。
 

最後に

 
最初は迷宮の様な魔都レアモンデのごとく難解なシステムがプレイヤーを惑わし、最後には劇中でグラングリモアの魔に魅入られた者たち同様にこのゲームの奥深さの虜にさせられる文字通り魔性のRPGでした。
 
このような細部にこだわり抜いた本物に出会う喜びを味わうため自分はゲームをやるのだと再認識させられる、非常に幸福な作品です。
 
 

 
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