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【PS】永遠にループする二日間からの脱出 |『Prismaticallization(プリズマティカリゼーション)』| レビュー 感想 評価

OPアニメーション

評価:70/100
作品情報
ジャンル アドベンチャー
発売日(日本国内) 1999年10月28日
開発(デベロッパー) アークシステムワークス
開発国 日本

ゲームの概要

 
この作品は、時間のループ現象に巻き込まれたことに無自覚な主人公をループ脱出まで導くというアドベンチャーゲームです。
 
プレイヤーがループ状態を管理するというシステム、主人公のもどかしい文体、青春ものという諸要素が奇妙に融合し合うオリジナリティが強い作品に仕上がっています。
 
ただ、パズルを解くための周回プレイが大半を占め、プレイしていて楽しいという類のゲームではないのがやや残念でした。
 
 

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あらすじ

 
受験勉強の合宿のため、幼馴染みである明美の知り合いが経営するペンションを訪れる主人公。
 
気の合うペンションのスタッフや宿泊客の少女たちとの出会いを満喫し順調だった合宿に事件が起きる。
 
合宿二日目、ペンションのスタッフである少女が必死で探していた謎のクリスタルを拾ったことが引き金となり、合宿二日目からペンションを訪れる直前に時間が巻き戻るループ状態に陥ってしまい・・・・・・。
 

ループ脱出のお手伝いをする斬新なアイデア

 
このゲームをこのゲームたらしめている最大の要因はループ型のストーリーをプレイヤーに管理させるという斬新な試みです。
 
本作の肝はゲーム内で起こる出来事の状態を5つまで記録(ストック)でき、それが周回プレイ時に対応した箇所でオートで解放(消費)されるという特異なシステムです。
 
そのため、ループ現象に巻き込まれたという自覚の無い主人公をプレイヤーが能動的に物語に介入しゴールまで導くという点において、ただの受動的な物語ではなくトライ&エラーを楽しむアドベンチャーゲームらしさが濃密でした。
 
 

システムの例

雨が降るという状態を記録
次の周以降に状態が解放され同じように雨が降る
 
カバンの中に手に入れた本をしまったという状態を記録
次の周以降に状態が解放され最初から本を所持している
 
 

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アイデアは◎、楽しさは△

 
斬新で目を見張るシステムとは裏腹にキャラクターや舞台、物語それ自体は惹かれる要素に乏しくあまり周回プレイが楽しいとは思えませんでした。
 
結果コンセプトは魅力的なのに、それを用いて周回プレイさせられる話は地味で刺激不足という落差を感じます。
 
この退屈さの原因の一つは、プレイヤーがループの中でイベントを発生させたくなる様な魅力的なシチュエーションを作れていないことだと思います。
 
最初に謎があり、その謎をシステムを用いて解き、先に進めることそのものが快感として機能しなければならないのに、このゲームは何に使うか分からない状態が記録(ストック)され、次の周で予想していない箇所で解放されてしまうため、自ら謎を解いて先に進めたという達成感が著しく弱いです。
 
例えばあるキャラクターの心を開くにはそのキャラクターと関係が深く秘密を知っている人に話を聞きそれを記録しなくてはならないなど、謎解きまでの経路をプレイヤーが頭の中で想像できません。
 
それに状態を記録し次の周に持ち越せるというアイデアは面白いものの、それがプレイヤーの判断ではなく自動的に解放されてしまう点が面倒でした。
 
これによって無駄に激ムズなパズル要素が加わり、ただストックしてある状態を調整するためだけの無意味な周回プレイが増え、これが苦痛でしかありませんでした。多分パズル要素は難易度を上げてプレイ時間を水増しするために入れているのだと思います。
 
謎解きに悩まされるならまだ分かりますが、どの記録を持ち越すのか記録の持ち越し管理にまで苦慮しなくてはならず、このせいで複雑さに拍車がかかりゲーム難易度が異常なほど高く感じます。
 
持ち越せる状態に上限を設け、どの状態を記録するのかプレイヤーに悩ませるのはいいと思います。しかし、解放のタイミングはプレイヤー側に委ねてくれたほうがもっと純粋に謎解きに悩めて話に集中できたはずです。
 
アイデアが志向していることの斬新さはワクワクさせてくれるのに、結果プレイすると諸々のマイナス要因によって味気ない無味乾燥な作業感しかありませんでした。
 

テーマとリンクする主人公の一人称語り口

 
本作がやろうとしていることは端的に言ってうじうじしている理屈屋の主人公が悩むことを止めて一歩踏み出すというただそれだけの話です。
 
ですが、ぐるぐると同じところを回り続けるループ型の物語と、現実を複雑に捉えてあーだこーだ言っては傍観者に徹し対象と距離を取りたがる主人公の持って回ったような一人称語り口が奇妙にリンクしこの作品の味として機能しています。
 

ループ系という設定に特化した物語構造になっていない控え目な余韻

 
プレイヤーは何十周もしているのに主人公にはループしている記憶がなくただ少し変わった一日を過ごしただけという終わり方なので余韻は非常に地味です。
 
映画『恋はデジャブ』のように主人公が同じ日をループしているという自覚があるタイプの劇的な変化・成長は起こりえないためカタルシスはありません。
 
ループ系という奇抜な設定を用いているのにも関わらず、その奇抜さからもたらされるべきカタルシスは物語の地味さゆえに欠如しているため、エンディングを見た後の「これで終わりなの?」というぽかんとさせられる余韻は個人的にはマイナスでした。
 
地味なテーマや物語が悪いというワケではなく、ループ系という現実にはあり得ない設定(ルール)で物語を語るのに地味なテーマや物語はあまりゲーム的に相性がいいとは思えませんでした。
 
ゲームのキャラクターたちが成長しなくてもプレイヤー側の認識が変化して、物語や人物の見え方が始めと終わりで劇的に変わるといった落差があっても良さそうなのにそれも大してありません。
 

あれほど長時間面倒なパズルをやらされてこの終わり方だとさすがに物足りません

最後に

 
アドベンチャーゲームとしては作業プレイばかりであまり楽しい瞬間はありませんでした。
 
ただ、ループ型の物語に干渉するという大変素晴らしいコンセプトなゲームなためプレイして絶対に損はありません。
 
 

 
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