プレイ動画
評価:95/100
ジャンル | アドベンチャー |
発売日(日本国内) | 1999年12月4日(SS版) |
開発(デベロッパー) | エルフ |
開発国 | 日本 |
ゲームの概要
この作品は、数々の名作アドベンチャーゲームを生み出した天才ゲームクリエーター菅野ひろゆきさんが手掛けたゲームです。
並行世界を移動するA.D.M.S.システムの斬新さと、それを際立たせる圧倒的スケールのシナリオ、そして数々の遊び心が溢れる仕掛けが満載と、アドベンチャーゲームの魅力がこれでもかと詰まっています。
欠点も数多くあり諸手を挙げて傑作というゲームではありませんが、一度プレイしたら記憶に刻まれること必至の圧倒的な熱量を秘めた怪物作品です。
あらすじ
学界で異端の歴史学者の異名を持つ父が行方不明になってから数ヶ月。もはや死亡したと思われていた父から突然ある人に会えというメッセージが記された手紙と、リフレクターデバイスという並列世界を移動するための装置が届けられる。
並列世界を旅し、全ての謎が解き明かされた時、この世の果てで主人公を待ち続けるユーノに会わなければならない理由を知ることに……。
セーブの利便性(やり直しの自由)を奪うという逆転のゲームデザイン
本作は、このゲームそのものと言っても過言ではないA.D.M.S.(アダムス)という、自動でマップを可視化するシステムが最大の特徴です。
ゲーム性としては、特定のルートを進めているとそのルート上では入手できないアイテムを使わないと進行不可能な状態に陥るため、多数存在する並列世界(分岐したルート)を跨 ぎ、他の並列世界(もしくは過去)でしか入手できないアイテムを探してくる、というものです。
このゲームで最も衝撃だったのは、宝玉セーブ(マップ内に任意で設置できる仮のセーブポイント)をプレイヤーに管理させるという発想です。
どんなジャンルでもある程度共通する最強の救済措置であり、万能のシステムであるセーブをサブ的な保険としての役割に留め、メインはテレポート兼、クイックセーブ機能を有する宝玉セーブを利用するという斬新なアイデアに唸らされました。
このゲームは、並列世界を頻繁に移動するというシステム上、他の並列世界にアイテムを持ち越せない通常セーブはただの進行状況を保存するだけの保守的なものへと成り下がり、アイテムを持ち越せる宝玉セーブこそが主役として際立つように設計されています。
そのため、他のゲームでは味わえない積極的かつ戦略的なクイックセーブ&クイックロード体験が堪能できます。
ペナルティの作り方も秀逸で、個数に限りのある宝玉を考えながらマップに設置していかなければ膨大な時間をロスする作りとなっており、セーブに制限をかけるだけでゲームとしてここまで緊張感が生まれるのかと目から鱗でした。
最終目標はマップ上に点在する宝玉を回収することですが、この部分もよく練られています。
宝玉所持数がそのままセーブスロットの数となるため宝玉は先に進むために手に入れる鍵アイテムであると同時に、ゲームを有利に進めるための便利アイテムでもあります。
なので、プレイを楽にするために手に入れたいという欲を常に持ち続けられ宝玉を回収できた時の喜びもひとしおです。
宝玉セーブの使い方を熟知すると、アイテム回収もマップの探索も高速化し、システムを肌で理解できたという充実感を得られることもゲームという媒体の魅力としては重要です。
壮大なドラマを紡ぐのに壮大なシステムを用いる
本作ほど語られる物語のスケール感のでかさと、それを語るA.D.M.S.システムの並列世界を移動するという途方も無いシステム的アプローチが呼応し、相乗効果を生んでいるアドベンチャーゲームに出会うのは初めてでした。
これは、シナリオとシステムを菅野ひろゆきさんという、アドベンチャーゲームを熟知し、しかもシナリオセンスも優れた人物が管理するからこそなし得た成果だと思います。豪華な物語とその物語のポテンシャルを最大限引き出すためのシステム設計の隙のなさには美しさすら感じます。
これほどまでに高い次元に到達した体験は自分がこれまでプレイしたアドベンチャーゲームの中でも間違いなくベストで、いかに物語とシステムがゲームの面白さを成立させるための両輪であり、双方に配慮をする必要があるのか教えてくれる希有な作品でした。
欠点多し、しかし高見を目指したがゆえの誇るべき未完成さ
『YU-NO』は不満点も数多く、看過できない深刻なものもちらほらありました。
まず、会話内容に中身がなく弛緩している点です。全体の半分くらいのやり取りは削っても本編に影響はないであろう駄話で、ゲームのテンポ感を著しく削いでいます。
あらゆるシーンにエロ要素を散りばめすぎるのももはやサービスを通り越して嫌がらせかというレベルに達し度が過ぎています。
ギャルゲー的な要素と本編のストーリーも非常に食い合わせが悪く、色々な女の子にちょっかいを出しまくる行動が、最終目標へ至る動機へのノイズになってしまっており本末転倒でした。
ややネタバレになりますが、終盤の舞台になる異世界編も、ハイファンタジーの見せ方がいくらなんでも耐用年数切れの古くさい記号的なもので、ドラマとしての高級感を著しく削ぐ原因になっており、ここも現代ではやや厳しいものがあります。
後、異世界編はA.D.M.S.システムが採用されず『ゼノギアス』のディスク2を思い出す、ただお話を延々読み進めるだけという点は不満ではありますが、開発の都合上仕方なかったらしいので割り切ることに。
そして本作の中でも一番惜しいと感じるのは、前半にやってきた出来事と終盤の展開にほとんど関連性が無いことです。A.D.M.S.システムを使いこなし進めてきたミステリー要素多めの本編パートと、異世界編の度を越したスケール感の物語に落差がありすぎて、二つのパートの繋がりが希薄でした。
このせいで本編パートでやってきたことの積み重ねが異世界編で一旦白紙になってからまた積み上げていくような、物語的な感情曲線がぶつ切られる唐突な印象を受けます。
最後に、一番大きいのは褒めポイントであると同時に序盤のストレス源にもなるA.D.M.S.システムの問題です。
確かに宝玉セーブを用いるシステムは秀逸なのですが、いかんせん宝玉設置場所を間違えると最初からやり直しさせられるというペナルティが序盤にはあまりにも酷と言えば酷でした。
システムに慣れさえすればどうということはないですが、これのせいで序盤は延々同じルートをくり返しプレイさせられるという拷問のような時間を過ごすことになり、正直面白さよりも面倒さの方が勝ってしまいます。
このゲームは正直欠点が多く、とても手放しで褒められるような完成度ではありません。
しかし、それは新しいことに挑戦しようという作り手の志があまりにも高すぎたことが原因で生じてしまった問題であり、不思議とこの作品に対する評価を下げる因子にはなりません。
これは同じく菅野ひろゆきさんの作品である『エクソダスギルティー』にもそのまま当てはまり、志が高すぎてまったくシナリオもシステムも追い付いてきていないせいで逆にこれが完成したらどんな想像を絶するゲームに仕上がったのだろうと妄想で隙間を埋める楽しさがあり、それはそれで好ましさを感じます。
最後に
欠点が多いものの、アドベンチャーゲームというジャンルが持つ無限大の可能性を教えてくれた偉大な傑作でした。
自分がプレイしたあらゆるアドベンチャーゲームの中でもこの作品がダントツでベストです。A.D.M.S.ほどプレイ中にワクワクさせられたシステムは後にも先にもありません。
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